第25話 即席侍女(男)
私は
たしかに年頃の女性にとって、雨漏りする空き家住まいは厳しいのかもしれない。屋内か屋外の違いくらいで、寝泊まりや食事に関しては野宿とそれほど変わらない。
「セリナも早く町に行きたいのか?」
「一緒にいられるならどこでもいい。ここ、のんびりできるから好き」
「そうか……ヨーナはどうなんだ?」
「我はどこでも良いじょ。風が吹き抜けるのは風情がっていいものじゃ!」
「オリエッタはもう限界なんだよな?」
「うーん。みんなが良いなら我慢するよ。あたしもハワードとイチャイチャできるならどこでも良いよ」
長々と喋っていたが、驚くほど簡単に同調圧に屈する女だ。
まあ、オリエッタの冗談は聞き流したとして、早めに移動すべきかもしれない。
気にはなっていたが楽しいアイテムファームに熱中してしまい、オリエッタの変化を見逃していた。何となく気になり観察していると、日を追うごとにボロボロになるオリエッタ。いくらなんでも哀れに思え村を後にする。
敵の強さがインフレする兆候はなく、次に進んでも問題ないだろう。
次の町に行くには海岸沿いをひたすら歩くことになる。
乗り物が欲しいところだが、騎乗生物は次のゾーンのクエストだ。それも老馬みたいに貧相な
諦めて徒歩の旅を続けていると松原が見えてくる。海岸に沿って松によく似た植物が防砂林として植えられていた。ただ、手入れしてないく、立ち枯れたままになっていて、日本の松原よりも景観は見劣りする。
どうでもいいが、オリエッタの命名で汚い松原に地名が決まった。小学生の考えた渾名のような響きだ。
街道は海岸と平行していて見通しはいい。モンスターも出ないので砂浜で休憩することにする。
この辺りは漁に適してないのか、漁船は見えない。
遥か彼方に海鳥が飛んでいた。
「ここで海水浴したいな。海綺麗だし! いいでしょ、ハワード!」
「海は止めておけ、出るぞモンスターが」
「出るわけないって、海に飛び込んでみる!」
「おい!」
オリエッタは言うより早く海に飛び込んだ。どうやら問題はないらしい、と思った矢先に悲劇は起こる。
ヒトデのようなモンスターが無数にオリエッタに張りついていた。
「あぁぁぁ! 助けてハワード!」
「おい! だから……」
仕方なく巨大なヒトデは挑発でおびき寄せて排除した。小さなヒトデは手で引き剥がすしかなく、オリエッタが変な声を上げるのでやりにくかった。
まあ、確実に喜んでいるのだが。
こいつは根っからの変態なのだろうか。
「もうお嫁にいけない。責任取ってよ!!」
「そら、ヒトデが責任取るってさ」
「あーんっ!」
取れてしまったバッテンの代わりに、処理済ヒトデを投げつけて魔力で貼りつけてやった。悶えて喜んでいたが無視する。
冷静に考えるとセクハラだ。今更だがセクハラ気質だったのか私は……。
「あ、セクハラか」
「わたしはセクハラと思うよ」
セリナに止めを刺されて落ち込んでしまう。これって無意識なのかもしれない。
昔からお調子者で、辞め時に気づかず、しつこく最後までやってたな。
少年時代、叱られるのが私の役目だった。
そんな回想はあとだ……。いまは反省の時。
「セリナさん。間違えそうなときは止めてください」
「うん! 間違えそうなときは、わたしが身体で慰めてあげるね」
もうセリナが何を言っているのか頭に入らなかった。
とりあえず休憩は打ち切って旅を再開した。オリエッタはこっそり誤ってきたのでデコピンしてやったら抱き着いてきた。
「助けてくれてありがとう。惚れ直しちゃった♡」
「オーバーだな」
「照れなくって良くてよ!」
もう訳が分からない。
「もう、仲良しさんですね。ふたりは」
セリナが私の手を思いっきり握ってきた。痛くはないが圧が凄い。
そうだ、セクハラに気をつけなければ。
日没前に目的地のノーディンに到着した。ノーディンはこのゾーンの中心地で、商工業の栄えた職業ギルドの町でもある。町としての規模は現時点で最大、総面積でもこのゾーンで一番を誇る。
そういえば新米プレーヤーが良く迷子になっていた。
懐かしい思い出だ。
散策していると転送ゲートの色違いの魔法門があった。
あれは転送ポータル。
この町には自由に目的地を選べ、ゾーン移動できるポータルがある。町に到着すると解放される仕組みであり、この世界でどのように実装されているのかはわからない。だが、移動先からノーディンのポータルに戻ることはできるだろう。
移動先は今後増えていくことになるがポータルの開放ルールはどこも同じだ。
主だったところを見て回り、早めに宿屋に立ち寄り宿泊予約した。その後で町一番のレストランに見えなくもない食堂で慰労会を開催する。
そこでオリエッタに酒を飲ませたのが間違いで、泣きだしたかと思うといきなり嘔吐、抱き着かれて私は汚物まみれになる。手のかかる女だった。
セリナは既に寝ていて、パチモンと手分けして宿屋に連れ帰った。私はオリエッタの即席侍女……侍従になり浴室で汚物を洗わされている。
「お主の女は手がかかるの。ちゃんと調教しておくのじゃ!」
「調教とは?」
「性奴隷に決まっておろう! 明日の夜は調教じゃな。がんばるのじゃ!」
性奴隷ってなんだ。あぁ、ストレートに聞けないな。
「あの奴隷とは?」
「肉体的にも、精神的にも支配することじゃ! どんな道具でも作って渡すじょ」
こいつは私の性癖を間違って解釈しているのか?
折檻道具でも渡されそうだ。
どう転がってもオリエッタは喜ぶと思う……。
白くて柔らかそうな背中から豊かな尻を見ていると触れてみたくなる。
いけない、危ないところだった。
ヨーナがいなければ裸体に触っていたので、もう少しで痴漢男になっていたところだ。少し残念な気がしてくる。
「ハワードとやら触れてみ! モチモチでいい胸じゃぞ!」
競泳水着を着たヨーナがオリエッタの身体を弄んでいた。
特に爆乳を念入りに……。
「お前、わかって挑発してるだろ!」
「子孫繁栄は人として当たり前のことじゃ。恥ずかしがるでない。それ!」
ヨーナは石鹸まみれのオリエッタを渡して外に出た。
オリエッタは寝ぼけて私の名を囁きながら眠っている。まあ、手の焼ける娘を持った気分だ。サッサと湯で流し、オリエッタを抱き抱えてヨーナを追う。
色々と考えてしまうが、あやういところで煩悩は封印した。
こいつには、もう二度と酒を勧めないことにする。
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