第23話 レイス
早速、我々は神父から受けた依頼をこなすことにした。
序盤はクエストと聞いて連想される、いわゆるお使いクエストの様相を呈していて、託された小荷物を届けてクエストは終わる。
そして、終了報告をすると連結クエストが始まり、次は山側に広がる荒れ地で墓掃除した。当然アンデッドがパチモンめがけて殺到して、それを横目に掃除を完了させて最後は焚火で成仏してもらった。
教会に戻ろうとしたところ、荒れ地の奥、それもモンスターの真っただ中に女が突っ立て入る。荒野に佇む……美しい金髪の美女。
辺りをうろつくモンスターはエリートの行動パターンなので、アクティブのはずなのに女は襲われてない。
どうみても依頼持ちNPC(ノンプレイヤーキャラクター)で、クエストの起点キャラのようだ。
こんなクエストに覚えはないが受けてみることにした。
「あそこに見える女NPCはクエスト持ちのように思う。だから、エリートを倒して女と話してみたい」
「ねえ、スキルレベルを上げたから試してみていいかな?」
「オリエッタ! 相手はエリートだから我慢してくれ。最初は私が様子見する」
死なれたら教会まで戻らなければならない。現状のステータスから考えて、問題はなさそうに感じるが安全策をとる。
エリートモンスターはキジを大きくしたような姿で飛ぶかもしれない。
「セリナ! バフをもらえないか。そして、オリエッタとパチモンは待機」
バフをもらった後で4羽の鳥をウェブで絡めとった。キジを縛り上げて火属性の斬撃を飛ばすと、敵は爆散して羽根が飛び散っている。
生き残りがいないか確認したが、討ち漏らしはなかった。
絡まれると厄介だから、ウェブでオリエッタを拘束した後でNPCと話すことにした。束縛すると……オリエッタは喜びの表情で大人しくしている。
気にはなったが、性癖が移りそうで目を逸らす。
NPCと目が合うと話しかけてきた。
こんな細部まで人として再現され、リアル過ぎて怖くなる。
「メダと申します。この先の細道でモンスターに襲われてしまい、逃げる途中で結婚指輪を落としてしまいました。モンスターが多くて取りに行けません。探してきていただけないでしょうか。お願いします」
「わかった。探してくるよ」
「有難うございます」
女の話を適当に聞き流し、手帳を見るとクエスト受注になっていた。
その足で指定された細道を歩いていると人型モンスターが数体待ち受けている。
敵の強さはさっきのキジと変わらないだろう。私は躊躇せず単身で兎人モンスターを討伐してみた。
弱い。あまりにも弱すぎる。
辺りを探しても指輪は落ちて無く、道に立っていると兎人の男モンスターが再度湧き出してきて速攻で処分した。
「なんで、兎人なのに男なのよ。信じられない」
「同感だが、切り捨てるには都合よくないか?」
「まあ、女の子姿で丸焼きにしたら夢に出そうだしね」
セリナも妙に大きく頷いている。同じ気持ちということか。
でも、
おっと、鼓動が早い……。
アイテムは珍しくユニークリングが出ていた。
モンスター襲撃の波、ウエーブを何度かこなしたあとでクエストアイテムがドロップした。ランダムなのか討伐数でドロップしたかは判断できない。
手帳を確認するとメダに報告になっていた。当然、脱兎のごとくメダのところに戻った。
「メダ! 指輪が見つかった。受け取ってくれ」
「有難うございます。私の結婚指輪に間違いありません」
何の気なく手に指輪を渡そうとして違和感が強くなる。メダの姿は半分透けていて背後の景色が透過して見えだした。
警戒して下がると、手に持つ指輪はメダの手にゆっくりと飛んでいく。
渡したわけじゃなく。勝手にだ。
「あぁ、愛おしい貴方。それなのに貴方は私を殺して道に捨ておいた。死体はモンスターに食い荒らされたのよ。許せない。許さないんだからぁぁぁ!」
美しかったメダの身体は叫び声をあげる霊体に変わってゆく。
それはレイスと呼ばれるモンスター。
「おい! メダ!?」
「許せない。死ぬがいい!!」
レイスとなったメダは私に魔法を放つ。避けられずスタンさせられた。
次はドレイン攻撃か。
「ハワード! 魔法を撃つね」
「わたしはターンアンデッドします」
レイスはドレインタッチという名の魔法でライフを吸収する攻撃を仕掛けてきた。
スタンから解放された私は聖属性攻撃を加える。
動きはそれほど早くないがテレポートして位置を変えるので魔法を当てにくい。
オリエッタは半分ほど魔法を外し、パチモンはレイスの興味を引けない。ヨーナはデバフらしきスキルを畳み込んでいる。
泣き叫ぶレイスとの戦いは長引き、撤退しようかと考えていたとき、セリナのターンアンデッドが決まった。
確率勝負に勝ったのだろう。
我々はその場にへたり込んだ。
「ハワード! 今のクエスト後味悪すぎ。何で殺された男の指輪を取ってきたら襲われるのよ」
「あの狂気と執着では男に嫌われるだろ」
「執着はダメなの……」
「愛でも何でも匙加減が大切だ。あ、節度か。好きな気持ちはお互いに違うものさ」
セリナがぽつりとこぼした。
「自分のことだけじゃなく、相手のことも考えないと失敗する。わたしみたいに」
言葉は風に乗って消えていく。
私も自己のことだけ考えて生き、家族に死なれて初めて本当に大切なものに気づく間抜けだ。
あぁ、思いやりか。
考えなく歩いていくとレイスの浄化された位置にアミュレットが転がっていた。
絆再生の輝石とアイテム名にあった。
救われない気持ちになる。
かすかに遠雷のような響き、西の空を見ると黒雲が湧き出してきた。
試練が始まるようだ。
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