第21話 エピックモンスター

 太古の森林、そう呼ぶにふさわしい場所に入ると死臭が漂っていた。

 そして、強敵の気配。私は索敵を開始する。


 森は苔に覆われ、何かの胞子が飛んでいる。昆虫や小動物は人を恐れない。見た目だけの楽園。所々に倒木があり、先には立ち枯れた大木があった。

 さらに先には大岩。奴はそこにいる。



 大岩の陰から何かが飛びかかってきた。

 私は盾で防御して、反動を利用してバッシュ、盾を敵に叩きつけた。敵は跳ね飛んでいく。


 私は加速移動スキルのチャージを発動して駆け寄り、姿勢を立て直そうとする敵にスキルを放つ。敵を強打でノックバックさせた。

 さらに、転倒中の敵に二段攻撃を加えた後で距離をとる。


 仲間たちが気になり、用心しながら合流した。


 敵の姿を目の当たりにしたオリエッタは、短く叫び声をあげながら、狙ったように私に抱き着く。誰がどう見ても、わざとらしいぞ……。

 密着好きのセリナはパチモンをモフモフしている。


 それにしても、こんなところでモンスターに襲われること自体、ゲーム知識からは考えられない。

 警戒しながら敵を確認する。

 敵は白骨化した狼、青黒い体毛の所々から骨が覗いている。


「ゲームでは見たことのないモンスターだ。アンデッドだろう」

「アンデッド?」

「オリエッタ……ヤモリのように全身で貼りつくのは、さすがに動きにくい。あとで相手してやるから少し離れてくれ」


 どさくさに紛れて密着するようになってきて、気持ち良いのだが対処に困っている。

 胸と腰から下の弾力は……男への最終破壊兵器なのだ。

 自重してくれ頼む。


「言質とったからね! ちゃんと、忘れないで相手してよ」


 面倒な女だ。

 敵は待ってくれるはずもなく、会話しながら攻めてくる敵を打ち払ったり、斬りつけたりして牽制している。

 狼は顔が白骨化して表情こそないが、青く燃えさかる憎悪の瞳から、生きる者への怨念が感じ取れる。


 セリナはバフ数種を唱えてエレメンタルを召喚した。オリエッタは真面目にシールドを展開して足止め、デバフを入れる。

 パチモンは珍しいことに歯を剥きだして狼に食らいつく。


 このパチモンの攻撃性は何なのだろうか?


 ヨーナは飛ぶように敵の背後に消える。お前はアサシンなのか……。

 私はタウントして敵のヘイトをこちらに向けさせた。私は武器に剣を選び、斬撃に魔法をまとわせて切りつける。

 焔が噴出して狼に引火した。体毛は燃え上がり火の玉が出来上がる。


 計算通りで思わずニヤリとしてしまう。


 ただ、死んでいるからか炎への忌諱はないようだ。オリエッタが馬鹿の一つ覚えでフレイムランスを投げつける。

 当然のように下着チラ見せのサービス付きだ。


 敵は固く浄化を試みるが聖魔法の利きが悪い。アベルを除けば今までで一番の強敵といえる。ゲームバランスを考慮しても異常すぎる敵。


 オリエッタに憎悪が向かいそうなので、ヘイト管理のためにタウントと新しく覚えた雷撃魔法ライトニングボルトをかぶせる。

 攻撃力の高くなったオリエッタを放置していると、ヘイトが流れやすくなった。


「オリエッタ! 死にたくなかったらヘイト管理しろ」

「ヘイトって敵の憎悪だよね。どうすればいいの?」

「敵が攻撃対象を変更する前は視線が移るから。目を見て憎悪が向かない程度に攻撃を控えたり、デバフに徹するとか状況判断を頼む」

「わたしも?」

「そうだセリナ、ヒールはヘイトをもらいやすいから注意。私も自己ヒールできるので継続ヒールだけでいい」


 狼と斬り合っては距離を取っていたら、ヨーナが狼の陰から浮かび出る。

 背後から暗器による致命攻撃を加えた。


 首が転がる狼。まるで最強最悪の暗殺者じゃないか。

 おまえは何者なんだ……。



 戦闘は残念ながら継続中で、狼は首がなくても攻撃を断念しない。生者への忌諱や執着はそれほど強いのだ。

 オリエッタは炎を吐く狼の首を踏みつけて粉砕した。

 踏むの好きだったなと呆れていたが、敵の爪による攻撃は衰えを知らず私は回避を余儀なくされる。


 パチモンが狼に食らいついて拘束すると同時にヨーナがバックアタック、急所攻撃で狼の魔核を粉砕した。

 勝利したかと気を抜いていると黒い影が狼の型を取り亡霊の狼に変化した。


 私は慌てて祈りとヒールで浄化を試みる。

 聖魔法の効果はあるが、魔力消費が激しい。それを知ってか敵はマナドレイン、魔力吸収をキャストしてくる。

 獣のくせして魔法タイプにシフトしたのだ。


 魔力の少ない私には厳しい攻撃だ。

 セリナが成功率の低いターンアンデッド、魂の浄化を繰り返す。魔法がレジスト抵抗されなければ除霊できる魔法だ。


 物理攻撃は効果なく、魔法も霊体だけに効果は半減だ。

 敵の動きは早く隙が無い。


 私はアイテムの守りの護符を投げつける。

 弱体化でいわゆるアンデッド向けのデバフ弱体化だ。


 セリナのターンアンデッドが決まり、亡霊狼は光り輝いて退魔退散が成功した。


「なんでこんなモンスターが現れるのか……」

「ハワード! ダンジョンのボスより強くない?」

「あぁ、強すぎだ」


 ゲームでは序盤で段階進化するモンスターなど現れない。そもそも、アンデッドの狼や亡霊狼など攻略情報に無い。この世界のオリジナルモンスターか、ゲームに存在しえない即席生成されたモンスターだろう。


 残念なことにアイテムのドロップは一切なかった。

 期待したのに肩透かしを食らった気分になる。



 考え込んでいると森の木が倒される音が響いてくる。大型のモンスターでもいるのか?


「用心しろ! 何かがこちらに向かって来る」


 森から現れたのは10mを越える液体状のゴーレムのようなモンスターだった。サイズと魔力量からエピックモンスターに相当する敵だ。

 エピックであればレイドを組んで挑み、数パーティーがローテーションしながら倒す難易度になる。


「ゲーム分類でエピックモンスター。わかりやすく言えば、ゲームで頂点に立つモンスター群だ。そのエピックでも私の知らない個体」

「居ないはずのモンスターが存在するってこと?」

「そうなる。手を出すなよオリエッタ!」

「あたしでもあれは無理なのわかるよ。スライムゴーレム気持ち悪いし」

「エピックはノンアクティブで攻撃してこないと思うが、用心して距離を取るぞ」


 ゴーレムは近づきヨーナと睨み合っていたが、お互いに飽きたのかゴーレムは森に消えていった。

 予想どおりノンアクティブで助かった。


 しかし、ゲームから逸脱が始まったのか。




 森を抜け出て空を見上げると、上空高く淫魔が飛んでいた。

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