第19話 ヨナグニサンはただ殴る

 声をかけてきた女は作り物の人形ように表情のない和風の顔、丸太ボディーに幼女のような直線の脚。推定年齢は20歳から30歳くらい、妙に地味なブラウンカラーの着物とわかめちゃんカット。

 いつの時代をモデルにした神よ! 私は天を仰いで頭を抱える。


 ほんとに、こいつが護衛対象のNPCなのだろうか。


だったか……何か用がおありですか?」


 動揺して怪しい日本語になった。それなのに女は動じもしないで甲高く叫びだす。


「そうじゃ! 我を黄泉の国まで連れていておくれ!」

「護衛ですね」

「そうじゃ!! 何度言わすのかの! 早う行くじょ」

「はいはい。行きましょう」


 ところで、黄泉の国ってどこだ。この世界にも黄泉の国があるのか?


は黄泉の国がどこかわかりますか?」

「なんだ、知らんのか我の心の闇にある!!」

「場所は……」

「お前の影を踏めば何時か着くであろう。えへっ!」


 誤魔化したぞ、要するに私の後を追従するだけで、行き場所がわからない。手帳を見るとクエスト受注になっていた。驚愕の事実。

 セリナが私の袖を引っ張って耳打ちする。


「迷子さんですよ」

「なるほど」

「ちなみにヨナグニサンは日本一大きな蛾の名前」

「よく知ってるな」


 セリナが胸を張って私に抱き着いてきた。胸が当たっておりますよ……。


「イチャイチャしてないで我を連れていけ、お主らの冒険に!」

「あぁ、承知した。オリエッタ起きろ行くぞ!」

「ふ、ふぇ!」


 寝ぼけてヨロつくので支えたら間違ってオリエッタの尻を触ってしまった。感触が手に残るくらい。

 当のオリエッタはというと思いっきり笑っている。笑顔が怖い。


「本来なら、お金を請求するところだけど、今回はサービスよ!」

「悪かった。出来心だ」

「ふふん!」


 出来心ってなんだ。自分で言って意味が分からない。

 もっと理解できないのは、オリエッタが喜んでいることだ。


「ところで、この女は何! 新たなハーレム要員なの!?」

「いや、違う。これは迷子NPCのヨナグニサンで黄泉の国に連れていく」

「ハワード! 嘘はもうちょっと上手につくものよ!」

「いやほんとだから。なあ、セリナ」

「ハーレムさん三号」


 泥沼だった。


 ヨナグニサンはマンティスや山賊を単独で難なく撲殺している。護衛する意味を問いただしたかった。

 それにパチモンとは何故だか仲良くしている。


 私は疑似家族のようなパーティーを見て、真の家族というものに焦がれてしまう。

 元の世界でやり直したい。

 夕焼けは私に何かを告げている。振り返ると影が長く伸び。


 淫らに笑う淫魔がいた。




 ヨナグニサンは何時まで経ってもパーティーから離れることなく、なぜか連続クエストになっていて、移動するたびに報酬がもらえる。実に美味しいクエストだ。

 ということで、こいつが居てもデメリットはない。

 いつのまにかパチモン二号みたいな枠になっている。


 そして、武器も整ったことから【ゴブリンロードの洞窟】にて最終ボスを倒すことにした。

 ヨナグニサンが死んだら運がなかったと思うことにする。


 ダンジョンの深層にある最後の大きな扉に立ち突入の合図をだす。オリエッタは助走をつけて扉を蹴破った。


 戦闘の開始だ。



 今回はボス部屋の外でセリナがバフをかけて身体能力の向上と常時微回復の魔法をかけた。オリエッタは個人用のシールド魔法に付加魔法をかけている。私はバフをもらってパチモンを引きずってロードのもとに移動する。


 ロードは三体ともパチモンに群がっている。私はパチモンに感謝して、一体だけ攻撃して引き剝がした。


 相手の攻撃は単調で魔法を交えてくる。

 被弾してもセリナに回復を任せ、盾で叩いたり、メイスで強打したりして、魔法の発動を封じていく。


 オリエッタはパチモンを襲う1体をスタンさせて眠らせる。


 一気に安定したので指示をだす。


「オリエッタ! 私の攻撃するロードを攻撃。敵が膝を折るまで最大火力で攻撃してくれ! 間違えても殺すなよ!!」

「自信ないけどやってみるよ」

「セリナはパチモン周りにデバフ入れて、エレメンタルには魔法攻撃力アップを指示!」

「はい!」


 私はひたすら攻撃しながら様子を見る。

 敵が死にそうだ。


「オリエッタ! ストップ!!」

「次は起きてるので、いいんだよね?」

「スタン入れてくれ」


 オリエッタはパチモンを攻撃しているロードにスタンを入れて、片割れにスリープを入れて眠らせた。

 上手くなったものだ。


 私はスタンした敵に武器攻撃を畳み込み、タウントしてこちらにヘイトを向けさせた。

 安定するまでスキル攻撃を繰り返す。


「セリナ、フィールド魔法を置いて、エレメンタルを私のターゲットに重ねて」

「はい!」

「ハワード! 攻撃するね」

「ああ、単体攻撃で頼む」


 ヨナグニサンはいつの間にかロードを背後から殴っている。

 あっという間にロードは膝を折り、最後のロードのライフを削る。


「全員戦闘中止!」


 パチモンもヨナグニサンも忠実に指示に従った。それなのに、オリエッタは魔法を打とうとしたので、腕を引っ張って後ろから羽交い絞めにした。


 こいつが一番の問題児である。


 私はウェブで三体を絡めて最後の止めを入れた。

 同時に殺さないとライフが完全回復するギミックだ。初期のころは何度も煮え湯を飲まされたものだ。


 ロードの討伐は呆気なく終わった。

 気がつくとオリエッタを羽交い絞め……いや、抱き着いていたことを思いだす。



 オリエッタは何も言わず微笑んだ。

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