第18話 誘導クエスト

 インスタンスダンジョン【ゴブリンロードの洞窟】はボス部屋前まで進むことができた。レベルが足りなければ入場でず、ダンジョンに出入り自由な我々は狩場を占有している。

 なぜ、ボスを討伐しないかと言えば、今のゾーンでクエストをコンプリートして次に進みたいからだ。適正レベルでクエストを受けることにメリットがある。


 そして最後のクエストを攻略するために”囚われの街道とらわれのかいどう”という名の物騒な地名の場所を訪れている。街道なので道幅は広いが左右が山に囲まれていて、盗賊などが潜んでいてもおかしくない場所だ。


 今回は誘導クエストを受ける予定で開始地点で待っている。

 人通りはない。


「先客が2パーティーいるから、大人しく待つんだぞオリエッタ」

「わかったよ。じゃあ、昼寝するから起こしてね」


 というが早いか、道端に風呂敷のようなものを広げ、大の字になって寝ている。


 衣装はいつものトップレスで赤いサンダルが追加されたくらいだ。

 寝相が悪いから色々と見えてはいけないものがはみ出している。それをみたセリナが、器用にも葉っぱを乗せて隠してくれた。


 この女、恥というものがないのだろうか。


 呆れて見つめていると後ろからセリナが質問する。


「このクエストは誘導って聞いたけど何を運ぶの?」

「説明によると通行人だな。お、あれみたいだ」

「え?」


 来た道から老人がとぼとぼ歩いてくる。そして、先頭パーティーの待機位置で老人が叫びだす。


「あの、失礼ながら冒険者様ですね。この辺りではモンスターがよく出るらしく、護衛をお願いできないでしょうか」

「ああ、いいぞ!」

「ありがとうございます」


 最初のパーティーは老人を引き連れてクエスト完了地点に向かって歩き出した。しばらくすると獣ではないが……魔獣の大型マンティス巨大カマキリが襲いかかってきた。パーティーはうまく連携を取ってマンティスを倒している。


 危なげがなさそうだ。


「セリナ! あれが護衛クエストで現地で依頼を受けて、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)を守って目的地まで移動する感じだな」

「簡単なの?」

「いや、結構難しい。後半は敵が増えるから連携が必要だ。それにNPCのライフはヒールで回復できない」

「癒せないの?」

「あぁ、だから体を張って守らないといけない」


 セリナが不安そうに寄ってきて手を握ってくる。もう握られるのに慣れてしまい頭を撫でるまでがルーティンワークになっていた。

 最近は無茶苦茶密着してくるのだが、まあ子供だから問題ない。


 オリエッタであれば間違いが起きそうだからできないが。


 セリナが私を引っ張り、話し始める。


「わたしも守ってね」

「任せてくれ」


 なんだか嬉しそうだ。反射的に抱き締めてしまう。

 しかし、結構微妙なお年頃で抱きしめるのは憚られる成長をされている。まあ気にしたらイケナイ。


 何も考えないことにした。


「あの、冒険者の方ですね。私を山賊から守ってください。お願いします!」


 はっとして現実に戻ると、前のパーティーの護衛対象であるNPC少女だった。

 愛らしく笑っている少女。

 まあ、セリナの神々しさにはかなわない。


 今度は山賊かと思ってみているとパーティー内で揉め事が勃発。

 男二人が揉み合って叫んでいる。


 みていて暑苦しい。

 パーティーメンバーと思われる女二人は呆れ顔だ。


「俺がこの子をエスコートする!」

「いや、俺だぞ! 抜け駆けは許さん」


 喧嘩しだした……。NPC少女は男達が揉めていることなど気にせず、目的地に歩きだしている。

 何かヤバそうだなと見ていると。

 人影が多数。


「あ、蛮人!」


 セリナが山賊を見て蛮人と言った。

 ちょっとツボにはまって笑っていると、セリナがふくれっ面して肩アタックを仕掛けてくる。

 いやあ、可愛くて山賊のことは意識から完全に飛んでいた。

 親バカ気分である。


 呑気なひと時を過ごしていると、いきなり悲鳴が響き渡る。


「あ、襲われた!」

「あの子……死んじゃったよ」


 NPC少女は無残にも切り刻まれて倒れている。

 男たちは呆然として死体を見つめ、女の冒険者二名が山賊を切り殺していた。


「ちょっと! 男子なにやってんのよ。クエスト失敗じゃない。もう帰る」

「このパーテイーいやだよ。もう」


 女たちはさっさと帰り、男たちは慌てふためき後を追う。


「死体は残るな。これ本当にNPCなのだろうか。どう見ても人だ」

「お墓作ってあげていい?」

「そうだな簡単に埋めようか」


 私は魔法で穴を掘り、セリナが祈りを捧げながら死体を穴に並べていた。

 血だらけになっていたが必死なのか気づいてない。私はセリナの血をふき取りながら、墓づくりに励んでいた。

 当然のことながら、NPCが現れないか警戒はしている。


 セリナがお経モドキを唱えていたので私も便乗した。

 なんだかモヤモヤする。



「そこのもの、冒険者かの? 我はヨーナ・グニじゃ! ヨーナ・グニさんと呼ぶのじゃ。よいな!!」


 能面のように表情のないマネキン顔、メリハリの無い幼女体系なのに20歳前後、妙に地味なブラウンカラーの服と髪。

 よく見ると服が着物のような感じである。


 こいつが護衛対象のNPCなのだろうか?

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