第16話 魔性の女アンジェリカ
私の前を半裸の怪しい女が行進している。服を消し炭にした
おまえには食い気しかないのか……。
私は呆れて天を仰ぐ。
狩場を後にした理由は単純だ。腹が減り、黒ダチョウ狩りは飽きたとオリエッタが騒ぎ出したのである。行動の決定権はオリエッタに握られている。
昼過ぎに冒険者ギルドに出向きクエストの報告と受注を済ませた。この時間帯のギルドは人気がなく、ついつい受付嬢と雑談してしまう。
決して受付嬢と懇意になりたいわけじゃない。
単に、現実逃避。
私は挙動不審のオリエッタを睨む。こいつのせいで安らぎがないのだ。
気を取り直して受付嬢に他のパーティーやクランの情報を尋ねてみた。ギルド情報によると、大手クランがスキル開放クエストを管理しているようだ。
いわゆる狩場独占というやつだ。
その行為自体はありふれたもので意外性はない。
ただ、不自然なほど足踏みしていて、レベルアップが遅すぎるのだ。
考えても理由を思いつかず、用を済ませギルドを出た。
次の行先は雑用掲示板だ。
雑用掲示板はギルド前の広場にある大型ボードで、日常クエストと臨時クエストが張り出される。
予想していたイメージと違い、実物は公民館の案内みたいな作りで、ガラス張りのため触れない。
「ハワード! このクエスト受けたいけど、受注どうやるの?」
「ゲームと違って、その場所に行ったら勝手に受注判定、達成するとドロップで報酬が得られると書いてるな」
案内板に書いてるだろ!
と言いたかったが、あとが面倒だ。
「この衣装が欲しい! セリナも欲しいでしょ」
「うん。もらえるものは欲しいかな」
「わかった。場所は養鶏場跡だな。ついでに森の小川も回る」
地図はギルド手帳の表紙裏にあり、スマホのようで便利だ。行先案内もあるので指示に従えば行きつく。残念ながら、ゲームによくある自動移動の機能はなかった。
考え事をしていると脳内音声が響き渡る。
『半月の神殿より聖遺物が持ち去られた。首謀者である魔将デノスを討伐し、聖遺物の奪還こそ我が望みなり』
時計塔の上空に女のホログラムが映し出されていた。
「あ、あれは預言者アンジェリカなのか?」
ゲームでは天使と呼ばれていたのが、この預言者アンジェリカである。
しかし、再現は予想を超えていた。
すべてを陽の目にさらすその尊さ。シースルーネグリジェのようなレースの布切れを纏い。
ほぼ生まれたままの姿!
『これは悲願である捕食寄生者を
男どもは説明などそっちのけで浮足立っている。
嫁は存在した、天使アンジェリカ、女神、生だぞ、見放題、ポーズも自由、まる見え、いつか触れるのか等。
下心を隠さないつぶやきが広場にあふれた。
こんな奴らを野放しにしていいのか?
確かに露出は高い、というか透けているが……いや、そこが問題じゃない。これはクエストなのか?
でも、なぜ胸元アップ。ああ、煩悩に囚われていたのは私も同じだ。またしても、視線が胸に引き寄せられた。ダメだ。
魔性の女アンジェリカ。
「ハワードもあれに目が釘付け! あれが良いのね」
「いやいや、こ、これは事故だ。放送事故というやつだ」
かなり苦しい言い逃れだ。セリナが軽蔑の眼で私を見つめている。
これはまずい。
「ギルド手帳を見てみろ。今のは第一シーズンのメインクエストだ」
「あの、誤魔化さなくても……」
「セリナ……まあ、養鶏場跡に行こうか」
痴女アンジェリカは同じメッセージをリピートしていた。それも、かなりきわどいポーズで……。あぁ、揺れている。
もう少し見ていたかったが、セリナが凄い勢いで私を広場から追い立てた。
養鶏場と言っても田舎町によくある養豚場を鶏が逃げられないようにした施設で、魔獣化した鳥の化け物が巣食っていた。フェンスには網が張られていたのだろうが、今は穴だらけだ。
我々のことなど気にもせず、魔鶏は我が物顔で出入りしている。
「オリエッタまだ魔法を放つなよ」
「キャッハーッ! 焼き鳥ぃぃぃ」
言った矢先に魔法を放ちやがった……。
「はぁ……また後始末か」
フレーム・ストライクのレベルを上げたせいで三分岐して火炎が飛んでいく。魔鶏は燃え盛った。それも盛大に。
予想どおり、リンクした他の魔鶏がオリエッタに殺到する。
仕方なくタウントして盾でガードした。
本当に見境がないのはやめて欲しい。泣きそうになる。
敵が寄ってくるのを確認してウェブで絡めアイス・スパイク攻撃、魔鶏どもが弾けるように大爆発した。その理由はウェブを最高レベルに上げたからだ。拘束リンクされている全敵に爆発ダメージが入るようになった。
それは戦隊モノの登場シーンでよくある。白煙あげる爆発演出、やっていて恥ずかしい。
セリナが飛んで跳ねて喜んでいる。
戦隊ものに憧れでもあるのだろうか。何とかピンクとか……。
気まずくなり、お仕置にオリエッタをウェブで縛り上げるとすごく悶えていた。
変な性癖の持ち主なのだろう。
「拘束されるのいいわーっ! この胸の締まり加減!!」
「オリエッタは無視だな。え、セリナもして欲しいのか……」
頷くな。対応に困るぞ。セリナは全肯定の姿勢で待ち構えている。
見なかったことにして狩りを続行した。
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