第15話 オリエッタと黒ダチョウ

 湿地は霧が立ち込めて視野が悪く、風の通るところだけ薄っすらと日が射している。足元は砂地の場所もあれば、泥で覆われた場所もあり、足場が悪く油断できない。とにかく歩きにくい。嫌になる場所だ。


 仲間と言えば、セリナは私の腰に抱き着いて離れず、オリエッタは落ち着きなくあたりを見回している。

 それを見て、幼かった娘と湿原に行った過去を思いだす。


 余計なことを考えるな。

 二人が沼とか水深の深い場所に転落すると厄介だ。



 どうやら湿地は人気がないようで他のパーティーは数えるほどしかいなかった。当然、例のクランやオリエッタの元パーティーも存在しない。トラブルは避けたいので好都合だ。


 湿地に分け入ると所々深めな沼が存在していた。地形は浅めの川と泥地が広がり、水生植物や低木が生えている。

 霊的な何かがいてもおかしくない神秘的な場所。

 美しいのに落ち着かない。


 今回受けたクエストは討伐依頼、黒いダチョウのようなモンスターの駆除と巣の破壊だ。巣を破壊すると大型の黒ダチョウエリートが襲いかかってくる。

 ギミックは面白い。


 ただ、厄介なことに黒ダチョウエリートを一定時間に倒さないと仲間の黒ダチョウエリートを無制限に呼んでくる。無限湧きというやつだ。


 実際はそれを利用して、黒ダチョウエリートを乱獲する。


「オリエッタとセリナは小さい黒ダチョウを見つけ次第倒してくれ。弱いから魔法は何でもいい。それと、巣を見つけたら連絡すること」

「巣を踏んずけて、グリグリしちゃだめなの?」

「オリエッタ……頼むからやめてくれ。仲間を呼ぶはずなので、最初は私が確認する。いいな?」

「もう、わかったよ! ほんとは潰したかったのに……」


 セリナが声を立てずに笑っていた。

 やっと普通に笑うようになってきたな。一歩前進といったところか。


 狩りは順調で黒ダチョウはクエストの指定数を倒した。ほぼ一撃で死んでいるのでセリナとオリエッタの魔法レベルは上がり過ぎだ。まあ、どのみち敵が強くなるので問題はない。


 討伐はイージーだが、本命の巣に巡り合うことなかった。


「あぁ、飽きた! 巣って本当にあるの? 都市伝説なのでは!?」

「オリエッタ! 頼むからを食わず真面目に探してくれ。それと、パチモンが沼に沈んでいるのだが」

「底なし沼にての散歩だよ。たぶん、喜んでる?」


 おまえ、確信はないのか……。


 死んだからと言って私は引き揚げに行かないぞ。

 気になって観察していたが、パチモンは水中でも平気そうにゲロっていた。いや、どこでも元気な奴だ。


「ねえ、あの木の上にあるの巣かな?」

「セリナは目の付け所が違うよ。ハワードと大違い!」

「オリエッタには言われたくない。お前も同類だろう」

「あはは、何のことかしら?」


 オリエッタは無視だ。

 それにしても、どうやって巣を作った黒ダチョウ。飛べないはず……。


 まあそのことはいい。

 真面目にオリエッタの相手をすると疲れるだけだ。私は巣の破壊を優先することにした。オリエッタは名乗りを上げて壊すと息巻いていたが、やらせると木に登れず沼に落ちたので止めさせた。

 運動神経が壊滅的に悪い。目が点になる。


 濡れたからといって服を投げ捨て、既に下着で歩いている。見ないように努力しても熟れきった果実は目に毒だった。


「そ、それでは、巣を壊してくる。エリートが現れても手を出すなよ。いいな、オリエッタ!」


 私は返事も待たず、木を駆け上がり巣を蹴落とした。

 落下する鳥の巣を目で追うと。


「おい……」


 半裸オリエッタはフレイム・ストライクで巣を焚火にしている。

 よせばいいのに、乾かそうとして焚火に近づけたワンピースに引火。火の粉をあげて燃え尽きた。


「お前、なにを……」

「えへっ! 失敗しちゃった♡」

「……」


 呆れていると地震のような足音がして、5mくらいある黒いモンスターが現れる。

 デカすぎる黒ダチョウエリートの来襲だ。


「わざと仲間を呼ばせるから倒すなよ。パチモンは前に出しといてくれ」

「うん、蹴飛ばしておくね」


 黒ダチョウエリートは体当たり攻撃と嘴で襲ってくる。


 オリエッタはパチモンもろともエリートに蹴られて沼に落ちた。

 セリナが助けに向かい、腰を引いてヒールしている。


 いつも蹴飛ばすから因果応報だ。

 少しは懲りてくれるといいが、無理な話か。


 呆れながら、タウントを入れて挑発した。黒ダチョウエリートを引き付けて盾でガードする。

 吹き飛ばされるかと警戒したが、多少滑っただけで受け止めた。


 楯スキルは異常な強さである。

 不思議なことに体長5mのエリートが難なく止まる……。



 敵の嘴攻撃はメイスではらい、体当たりは受け止められそうであるが、無意識に回避していた。黒ダチョウはすでに大きいだけの雑魚敵になっている。


 私はアイス・スパイクで片足を凍らせて拘束、逆の足をメイスで叩き潰した。

 あとは仲間を呼ぶまでメイスで攻撃してはアイス・スパイクをお見舞いしてやる。


 瀕死になった黒ダチョウエリートは苦しそうに首を振り、野太い声で鳴く。


「あっちから、2羽くるよ」

「パチモンに誘導するから、動くなよ」

「はい!」


 セリナはオリエッタを必死に掴んでいた。

 オリエッタは蹴られて怒り心頭、怒髪天の勢いで暴れ叫んでいる。


 睡眠魔法でも覚えるか……。オリエッタを眠らせるために。



 狩は安定して5羽まで増えたところで、一羽残してウェブと強打で4羽を同時に処理している。

 そして、また仲間を呼ばせるのだ。ループは閉じた。


 巣さえ探し出すことができれば、安定したエリート狩りができる。



 もうクエストどうこうではなく、単にアイテムファームになっていた。

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