第14話 武器強化は男のロマン

 インスタンスダンジョン【ゴブリンロードの洞窟】にこもり、アイテムファームを始めて8時間くらい経過した。さすがに惰性狩りは飽きがくる。

 仲間の様子を観察すると、まるで遠足気分のようだ。私はため息をつき、帰還する前に二階層の様子を確認しておく。これは安全策だ。


 最奥に部屋はなく、特にプチボスを倒すといったイベントもなかった。通路の先、薄暗がりに上階層につながる階段が見つかる。目を疑い拍子抜けしてしまう。

 その……にわか作りのような階段がセーフエリアであることを確認した。


「オリエッタは私の真後ろに続き、セリナは左側で一緒に進む。あと、敵が急に出現したときは二人とも後退してくれ」

「はい、手は繋いだらダメだよね?」

「セリナって子供みたい」


 アリエッタの揶揄からかいいにセリナは頬を膨らます。


「初めてのダンジョンなんだから構わないぞ。まあ、持つのは服にしてもらったほうが対応しやすいが」

「うん、ありがとう」

「じゃあ、私も後ろから持っちゃおうかな。こんな感じで」

「おい、引っ張るな」


 そうでなくてもボロ衣装なのだ。引っ張ると伸びるから、やめて欲しい。

 どさくさに紛れてセリナはちゃっかり手を握ってきた。


「あ、セリナが抜け駆けしてる!」

「冗談は程々にしてくれ。この先には敵がいるから」


 今度はオリエッタがふくれっ面して服を引っ張てくる。やめて欲しいのだが。

 睨むと、二人は反省したのか大人しく追従している。


 最初からそうして欲しい。



 階段から先は大きな部屋が連結されたような大広間になっていた。光源は壁についていて明るくないが、暗いというほどでもない。最初のインスタンスなので意地悪なギミックはないだろう。


「敵はレベルが上がっただけで一階層と変わらない」

「倒してみていい? ねえねえ、あたし試したい! ダメかな?」

「……範囲魔法を使わないならやってみろ」

「よーし! いいとこ見せないとね!」


 お前は誰に見せたいのか。

 謎すぎる。


 オリエッタは手前にいたホブゴブリンにフレイム・ストライクを放つ。敵は被弾して苦しみながら消火に励んでいた。

 焼身自殺の動画を見ている気分になる。


 残念ながら敵は一撃で死ななず、セリナのファイアエレメンタルが止めを刺していた。攻撃手段や手数が多いのは良いことだ。


 それにしても、敵が確実に強くなっている。


 何度か敵を倒してみたが、強行突破できる難易度でなく素通りは厳しそうだ。ここで武器ファームを開園しないと奥に進めない。


「一度、町に戻ってエンチャントオーブを着けて出直すぞ。それと、気晴らしにこの前受けたクエストを先にやってしまう」

「はい」

「確かに、退屈だったよ」


 欠伸しながら喋らないでくれ。それに、オリエッタの貢献度は最下位だった。従魔のパチモンを見習ってほしい。

 呆れてダンジョンの外に出ると既に夜中になっていた。時間感覚が既におかしい。

 我々はトボトボと町に戻っている。





 町の工房は貸し切り状態で、食事を持ち込んで食事をすませた。私は合間に武器と防具にオーブを装着している。何度やっても引き込まれてしまう。


 武器強化は男のロマンなのだ。

 異論は受け付けない。


 その武器強化だが、オーブは複数の着脱が可能なので、使用する武器を厳選して穴の数だけオーブを装着する。今の段階ではオーブの効果は薄いけれど、無いよりはましなのでオーブを着けられるだけ埋め込んだ。


 薄っすらとオーブの効能色が輝き、武器に彩を添える。

 いい感じだ。


 女二人はユニーク杖を持たせることにして、オーブは魔法威力の底上げを狙った。魔力が枯渇するようであればオーブを変更することになる。



 私はスキルが増えすぎて、まだ絞り切れていない。ただ、ウェブが使い勝手がよく、スキルレベルをLv.3にしたことで敵の拘束数が12まで上がった。次に使い勝手が良いはタウントで、こちらも現在の最大レベルまで上げている。

 新スキル取得と他のレベルアップは様子見だ。


 オリエッタが私の袖を引く。


「なんで食事はお店で食べないのよ!」

「お前が揉め事を起こすからだろ」

「あーっ! レジェンドのことかぁ」

「お前の元パーティーからも恨まれてそうだし、遭遇すると面倒だ」

「あ……そうよね」


 オリエッタは納得してくれたみたいで、工房の椅子にふんぞり返って座り、無心に食事をはじめた。セリナは簡易食の紙箱を広げて悩んでいるようだ。


 セリナは私が見ていることに気づき、こちらを見て微笑む。何かを誤魔化したいのか、すまし顔で魔獣肉を私の簡易食にいれていた。

 好き嫌いがあるようだ……。


 私はラウンドシールドにオーブをはめ込んで、武器は打撲武器に分類されるメイスを使うことにした。魔力消費を抑えることを重視したのだ。

 メイスであれば聖スキルが使えるのでスキルを無駄に取得しないためでもある。楯はいずれ必要になるので目立たない盾として鉄製の円形盾を選んだ。


 状況と敵により盾とメイスではなく剣を使うこともあるだろう。

 まあ、臨機応変に対応する。


「あの、わたしはメイスでなくていいの?」

「セリナは杖を使い魔法威力を上げていたほうがいい。エレメンタルの攻撃が強くなるし、フィールド魔法のダメージも増える」

「はい。杖って聖魔法には効果ないのかな」

「聖魔法には微々たるものだな。スキルレベルを優先的に上げたほうがいい」


 セリナは納得したようで杖を振り上げては先端を回している。何かの儀式のように見える。

 オリエッタは私のメイスを持ち上げてオーブを興味深そうに見つめていた。


「ハワードは魔法威力を上げない予定? 例の投網みたいなの」

「ウェブは拘束数が増えるとリンク係数が上がり威力も増す。スキルレベルを上げて拘束数を増やすのが先だ」

「なんでもよく知ってるね」


 オリエッタは目を輝かせている。仕事もせずにゲームしていたとは口が裂けても言えない。

 工房をあとにしてクエスト対象地の湿地を目指す。

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