第11話 ネームドモンスター

 村長の家を出てクエストの実施場所であるペーターの畑に着くと、開放的な掘っ立て小屋の中で居眠りする青年がいた。どうするか迷っているとオリエッタが思いっきり連続蹴りを喰らわせる。セリナと私は目を合わせたまま凍りつく。


 その姿はエキセントリックというより性格破綻者。


「早く起きなさいよ! うすのろ!!」

「あ、ごめんなさい寝ていました。ギルドから派遣されたパーティーの方ですね。私が依頼主のペーターで……」

よ!」


 オリエッタとペーターの会話は平行線だった。ゲームじゃないのでスキップは無理だ……と諭したくなる。

 人のことは言えないが、なんだか相当に病んでいるようだ。



 ペーターの依頼はオーソドックスなもので、クエスト自体はよくある畑を害獣から守るものだった。


 畑には巨大なカボチャが一面に植えられていて、猪のような魔獣から守ることになる。猪は挑発が利かない仕様で、食い意地だけで生きているのかカボチャしか興味がない。そして面倒なことに、群れて現れないので各個撃破するしか手がない。


 成功条件は防衛時間が基準を超えると達成、敵に一定数を越えてカボチャを食われるとクエスト失敗になり、再受注が必要になる。


 少し面倒だ。


 オリエッタには弓攻撃とスプリットアローで魔獣を攻撃、セリナには風のエレメンタルで攻撃させ。私はアイススパイクで補助する。

 早く言えば連携訓練だ。


 詳細に作戦を指示せず各人がどう動くか確認したのだが、セリナは私を見つめたまま動かない……。

 一方のオリエッタはカボチャを射抜いていた。刺さることに驚いたが、繰り返すものだから速攻でクエスト失敗になる。


「オリエッタ……何を狙って弓を射ている?」

「黒い魔獣よ。他にいないでしょ」

「それで何故カボチャに当たる。おかしいだろ!」

「さあね! お腹すいてるからかも」


 何も言い返すことができなかった。食欲から無意識にカボチャを狙っているということなのだろうか?


 訳が分からないのでオリエッタには食事を握らせた。気がつくと弓を放り投げ、握らせた餌を栗鼠のように、それも美味しそうに食べていた。

 理解不能の謎生物である。


「セリナは悩まなくていい、ゆっくりでいいからエレメンタルにモンスターを攻撃させる指示を出しなさい」

「モンスターを選ぶ方法がわからない」

「ターゲットを見つめて念じればいいはずだけど、指差して決めてもいい」

「やってみる!」


 早速、ペーターのところに戻りクエストを再受注した。


 セリナは覚えがいいようで、すぐにエレメント使いとしてマスター域まで技術を伸ばしている。何やら条件付けすることで、エレメンタルを使役できるようになったらしい。

 オリエッタは弓ではなく魔法のファイヤー・ショックを使わせることにした。魔法は当たるので腹が減っていたからと言い訳していたが、弓に適正がないのかもしれない。


 思いつきの言い訳はやめて欲しい。私は頭を抱えて唸ってしまう。

 能天気に笑うオリエッタをどうするか悩みが尽きない。


 オリエッタにはローグ系統かデュアル魔構成で死霊術とソーサラーに変更させることにする。パチモンのことを考えるとデュアル魔が最適解かもしれない。とはいえ、将来はローグの延長線上にあるバードあたりが欲しいところではある。




 クエストは無事に終わり、ペーターから次の依頼者であるジョンのところに行くように言われた。オリエッタは次に向かう理由に納得いかず、執拗に食い下がっていた。

 私はやんわりと連続クエストだから断るほうが問題じゃないかと諭した。ふくれっ面していたので餌をやると……すぐに機嫌がなおった。


 案外単純な珍獣である。


 それを横目で見ていたセリナが羨ましそうにしていたので、菓子を食べさせた。甘え癖がついたのか、依存しているようで気にはなる。それにしても、すぐ手を繋ぎたがるので歩きづらい。正直、少し困っているのだ。


 次の依頼者であるジョンは、裏山にある墓地で幽霊が出て墓参りができないと泣いてすがってきた。当然のようにオリエッタがジョンが壁に飛ぶほど張り倒していた。しまいには頭を踏みつけていたのでセリナが手を引っ張り、パチモンがゲロ吐きで止めさせる。

 私は高みの見物に徹することにした。

 どう見ても地雷だから。


 行動は常軌を逸していて、オリエッタは過去に何かあったのだろうか。

 嫌に攻撃的だ。



 裏山に行くには一度草原に戻らねばならず、来た道を引き返している。草原に出ると何やら人だかりができていた。近寄ってみるとネームドモンスターを取り囲み、複数パーティーで攻撃していた。


 戦闘は既に開始されていて、贔屓目に見ても彼らでは倒せそうにない。ちょっと殴ってみたい誘惑にかられるが、あえて見学することにした。


 それなのに、それなのにだ。


 笑顔を浮かべたオリエッタが上機嫌に走っていった。


「見ておきなさい! あたしの炎の花を! ファイヤー・ショーック!!」


 あ、やってしまった。


 ネームドモンスターはジャイアントゴーレムといった感じの鉱物と生物の融合物で、オリエッタをターゲットに定めて移動してくる。それを見たパチモンが猛スピードでネームドに飛びかかり、モンスターの腕に食らいついた。


 聖獣が獰猛すぎるぞ……。


 戦闘は開始されたが、両者お互いに絡み合って下手に攻撃できない。

 しかし、完全にやらかした。どう見ても横殴りだ。


「おい、お前達! なんで横取りするんだ。クラン”晩穂の魅厄”が討伐中だぞ!」


 頭のおかしいのが出てきた。

 ネームドは最大ダメージとラストアタックの合計値で最終的にドロップ優先が決まる。モンスターは誰のものでもない。攻略したものが権利を得るだけだ。


 ここは穏便に済まそう。


「悪かった。仲間の勇み足だ。これ以上は攻撃しない。ただし、ドロップが出たときは受け取らせてもらう。当然の権利だから」

「何いってやがる。先に俺達が戦っていたんだぞ!」

「この世界のドロップ優先式は知らないが、ネームドモンスターは誰のものでもない。この世は強く賢いものが正義だ」

「なんだと! 詭弁だ」


 私は面倒になりウェブで食いついてくるパーティーをまとめて絡めとった。文句言っていた奴らが、急におとなしくなる。

 オリエッタはパチモンなど気にせずファイヤー・ショックを連発している。


「アッハッハッハ! 燃えさかれ紅蓮の炎! ファイヤー・ショックよーっ!!」


 ジャイアントゴーレムはパチモンを振りほどこうと必死で、オリエッタを無視している。

 炎は燃え広がり燃える巨人と化していた。


 熱い展開だ……。


「死んでおしまい! 焚火よ!!」


 パチモンにも飛び火しているが容赦なく魔法を連発する。魔力切れは大丈夫なのだろうか。

 絶頂の女は暑くなったのか服を脱ぎ棄て半裸になる。


「なんて熱いの! 燃えなさい!! ヒヒヒ!!」


 オリエッタはついにネームドを倒してしまった。


 はっきり言って驚いた。

 魔法の才能は本物のようだ。


「ねえねえ! この金色に輝く鞭って何!! ハワード!」


 あ、手に掲げるはユニーク鞭、それもレジェンドだった。

 個人帰属する武器で、伝説級というやつだ。

 たぶんこの世界で最初に倒したネームドだから出現したに違いない。武器種類はランダムだろう。


「おい、もういいから、行くぞ」

「今のレジェンド武器じゃないか?」


 縛られた奴らの誰かが呟いた。

 ゲームに詳しいやつがいたのか。まずいな。


「個人に帰属する伝説級か?」

「なんで俺達に出ずにクソ女に出るんだ。横殴りだぞ」

「いや、ドロップはゲームと同じ……」

「うるさい、クランリーダーの俺が認めないんだ! お前ら黙ってろ!!」


 面倒なことになった。縛っていてもそのうち解けるから放置して墓地に向かうことにした。まあ君達、のんびりして行ってくれ。


「いくぞオリエッタ。お前たちも安心しろ、そのうち魔法は解ける。じゃあな!」

「待ってよ。せっかく見せびらかすチャンスなのに!」

「お前はこれ以上、厄介ごとを起こさないでくれ」

「なによ!」


 私は早く立ち去りたいので、動きそうもないオリエッタの腕をとり仕方なくお姫様抱っこした。

 腕の中で真っ赤になる女は「キュ!」と言って失神してしまう。


 こいつはなんなんだ。


 セリナは俺の服をつかんで離さないし走りにくい。パチモンが一番まともで、のろのろ後をついて来ている。

 とりあえず、奴らを置き去りにできたので走る速度を落とした。



 オリエッタは目覚めたはずなのに眠ったふりをしている。本当に面倒な女だ。息遣いでわかるので、腕から落として反応を見たい誘惑にかられる。

 実際は落とすと面倒なのでやらないが。


 道は徐々に荒れてきて、雑草が生え茂り、少し先には雑木林が見えてくる。

 墓地は近いはずだ。


 ただ残念なことに夕闇が迫ってきている。

 夜の墓地は避けたかったが早めにクエストを終わらせたい。何となくだが、町に戻るとあのクランメンバーたちに絡まれそうな予感がしている。とりあえず、早めに最初の連続クエストを完了させ、インスタンスダンジョン攻略までたどり着きたい。




 墓地は真っ暗で、予想どおりアンデッドが闊歩していた。

 のろのろとだが。

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