第10話 突発侵略クエスト

 翌日は朝から古墳に向かい、オリエッタのスキル開放クエストを攻略している。

 古墳には人影どろろか、人の気配さえなかった。


 セリナには精霊召喚とマジックフィールドの属性魔法、ヒールとブレスの聖魔法を覚えさせたのでさっそく使わせる。

 ブレスは身体を強化する魔法でバフとも呼ばれ、ヒールはお馴染みの回復魔法である。精霊召喚はエレメンタルの召喚魔法、時間限定の従魔みたいなものだ。あとはフィールド系の範囲魔法。魔法強化や継続ダメージが入るのが特徴になる。

 加護の祈りはスキル取得効率が良いようだ。


 大部屋までは特に問題なく進み、ボス部屋ではパチモンが大活躍した。何故かわからないがモンスターの怒り、ヘイトを高めるのだ。

 面白いほど敵が寄ってくる。


 ボスは前回よりも呆気なく地面に伏した。


 オリエッタは倒したわけでもないのに飛び跳ねている。

 まるで、お子様みたいだ。



 職業ギルドに戻ってオリエッタの転職は無事完了となる。

 とりあえず、オリエッタには魔と弓を取らせた。ぶつぶつ文句を言っていたが、魔はファイヤー・ショックとライフドレイン、弓はスプリット・ショットのスキルを取らせた。

 ライフドレインは無属性攻撃の一部が生命力となって術者に戻る魔法、スプリットショットは矢を消費せず多数の矢を射かけることができる。

 とりあえず遠距離戦闘に特化して、自身の生命力はライフ・ドレインで維持するかたちだ。

 オリエッタはセリナや私に比べ取得スキルが限られた。

 何が原因かわからない。精神年齢なのか?


 従魔のパチモンは敵の怒りを買いやすく、驚くほど打たれ強いのだが、硬くても足腰が呆れるほど弱い……。

 まあ、そのせいで攻撃を受けるとコマみたいに回転している。

 盾役は務まらないが、敵の注意を惹けることが美点だ。


 しかし、容姿といい、謎の生物だ。


 私はというと8種類のスキルを選択した。楯はタウントとクイックガード、剣はスラッシュと強打、魔はウェブとアイス・スパイク、聖はキュア解呪とヒールにした。



 我々は冒険者ギルドに立ち寄って、受付で情報収集することにする。

 知り合いになった受付嬢フランチェスカのところにいき、クエストの受注と他のパーティーやクランの情報を聞いてみた。

 聞くところによるとスキル開放クエストを受けず、ネームドモンスターやインスタンスダンジョンに挑戦しているらしい。無謀である。

 ネームドモンスターとは名前持ちのモンスターのことを言い、通常はパーティー単位で挑戦するものだ。


 インスタンスダンジョンは入場に人数制限のあるダンジョンであるが、この世界の仕様はわからない。推測になるがダンジョン内で得た防具や武器でなければ、基本的に攻略することは難しいはずだ。

 特にスキルなしでは、人数がいても攻略は不可能だろう。


 スキル情報に関しては一部クランが掌握しているようで、これから攻略するようだ。邪魔されず先を越せたのは幸運だった。


 それにしても、既に互助組織クランが結成されていとは。

 驚きの事実が判明する。



 冒険者ギルドでは、初めてのストーリークエストを受注した。これは連続クエストの上位版であり、報酬の豪華なことが特徴だ。このクエストはアイテムボックスが入手できるから必須クエストともいわれていた。


 あとはランダムクエストが発生する可能性があり、運が良ければと呼ばれる突発侵略クエストの早期解放につながる。

 粘ってでもに遭遇すること、それが今回の重要目標になる。


 スタートはジャールメ村にいる村長と話すことから始まるのだが、この世界では受付嬢のフランチェスカから指名依頼ということで始まった。

 勇者パーティーの生き残りに依頼した……という設定のようで、勇者が死んでいるように説明された。腑に落ちないが無視することにした。いや、したかった。

 大体、私が勇者なのだ。生き残りってなんだ。と叫びたくなる。

 とりあえず、ジャールメ村を目指す。






 我々は徒歩でジャールメ村に向かい、途中で適当にスキルの確認をしながら進んでいた。

 稀に他の冒険者パーティーと遭遇することはあっても、のんびりとクエストを消化しているようで急いでいる様子はない。

 攻略を目的とするものはクランを作り、最低限の幸せを願うものがここで出会う者たちなのだろう。


 人の生き様に口を挟むつもりはない。例え愚かな選択でも。



 荒れた細道を歩いていると、牧草地だというのに潮の香りが微かにする。

 空を見上げると暗雲が立ち込めてきて風が増してきた。


 潮の香りの先には渦状の雲。

 魔神が暗雲から顔を覗かせ咆哮する。雷は鳴り潮風が吹き付けてくる。


「試練!」

「あれって……」

「白い光の帯が地面に落ちるから、そこに向かうぞ! 走れ!」

「あたしも行かないといけないのかな?」

「当然だ!」


 私は少しイラっとしながらも、強風の中を魔神のいる暗雲に向かって走っている。

 空の上の魔神は地面を指差し絶叫した。


 白い光がこちらに向かって降って来る。


「セリナ! ブレスとアイスフィールドを唱えろ」

「うん……」

「あたしは何すれば?」

「オリエッタはパチモンを前に押し出して待機だ」


 光の着地点からサハギンのような魚人が地面から湧き上がってきた。間に合ったぞ、試練を受けられる。

 私は次々と湧き出す敵を素早く切り刻んだ。手応えがまるでない。


「弱い! 何でもいいから攻撃していいぞ」

「なんでもって、スプリットアローでいいのよね?」

「覚えたスキルなら何でもいい。セリナは出てくる魚人をフィールド内に収めるように動け、私からあまり離れるなよ」

「うん、離れたくない」


 私は一瞬で敵をすべて倒した。


「次のステージだ! 新たな敵がくるぞ。備えろ」


 雷鳴が轟き、海水が我々を濡らしている。

 足元は既に海原になり、海水の中からイカ頭の怪人が現れだす。


 海なのに硬化した水面に立てるのは魔法……そう思うことにした。


「セリナはアイスフィールドとブレスを掛け直せ!」

「はい!」

「あたしは……」

「オリエッタはライフ・ドレインとスプリット・アローで交互に攻撃。なるべくパチモンから離れるな」

「わかったよ!」


 セリナは魔法を順番に詠唱した。

 私はタウントで敵を挑発して、クイックガードで防御を高める。


 群がってくるイカ頭に向かって、私はウェブをキャストした。敵をまとめて絡めあげ、地引網の要領で引っ張ってくる。

 そのあとで縛り上げた敵にスラッシュをお見舞いして殺処分した。


 ウェブには拘束数に応じた高倍率のリンク攻撃が追加適用される。

 現れた敵は一網打尽だった。


 ウェブは見た目こそ悪いが効率では最強の攻撃方法で、雑魚敵の乱獲に向く。


 ステージは次に移り、低位の試練では最終ボスが出るはずだ。雷と風雨が強まり土砂降りになる。

 何処からともなく叫び声が聞こえ、海面が山のように盛り上がる。


 水面には5mはありそうなイカ頭の海神が出現した!


「下がって見ていろ!!」


 私は海面を走り、海神の振り払い攻撃を避け、飛んでくる黒い液体を回避して接近する。

 液体攻撃の合間を縫って雷撃が飛んでくる。嫌らしい攻撃パターンだ。

 私は回避してはアイス・スパイクを放ち続けた。


 雑魚敵が周囲に湧いてくる。定期的に雑魚を呼ぶようだ。


 現れた敵はウェブとアイス・スパイクで即時撃破する。そのまま、海神の武器を強打して麻痺させた。

 今がチャンスとばかりにジャンプして、私は海神の頭を切り刻む。


「オリエッタ! ファイヤー・ショックを全力でたのむ!!」

「任せなさい」


 オリエッタのファースト武器のロングボウが消え、セカンド武器の杖が出現して魔法を放つ。

 炎の花が咲き誇り、オリエッタの手から魔弾が飛んでいく。

 海神は触手を失い。瀕死の状態だ。


「畳みかけろ!」


 私の攻撃は一撃が軽い。スキルが取れないので仕方ないのだが、ボス戦では不利だった。

 とちあえず、暴れる海神を手数で翻弄して、雑魚が湧けば一網打尽にした。

 手応えはある。あと少しだ。


 海神は苦し紛れにトライデントで突いてくる。オリエッタは距離があるため、近場にいる私がターゲットされた。好都合だ。


 攻撃は剣で払い、挟まれて剣を折られないように用心する。


 オリエッタは奇声をあげながら魔法を撃っていた。

 エキセントリックな性格なのだろう。呆れてしまうが。



 攻防の末、ついに勝敗は決した。海は引いていき、頽れた海神が動かなくなる。

 海神の身体から白い光が立ち昇り空に消えていった。


 上空の魔神が我々を睨んで消えていく。


「勝利だ!」


 我々は意味もなく抱き合って勝利を称え合った。



 試練の最終ステージに進みボスまで倒せたたので、試練を含めた突発クエストの出現率が上がるはずだ。ギルド手帳のクエスト欄には称号の獲得と出ていたので間違いはない。

 記憶では、最初の試練は遭遇確率が低かったはずである。加護でも効いているのか、通常であればこんなに簡単に巡り合わない。

 過去の経験から考えても試練の初遭遇はインスタンスダンジョンの攻略後、次のゾーンで初めて出会えるものなのだ。



 我々は無事にジャールメ村に到着すると村長主催の接待に巻き込まれて朝まで飲み騒ぐことになった。セリナとオリエッタは酒を飲まず、宴会に興味がないのか早々に寝てしまった。

 私はパチモンと仲良く接待を受けた。村人がパチモンを神のように崇めることに違和感を覚えるが、まあ聖獣だからと理由をこじつけて一緒に飲むことにした。


 それにしても、クエストを受けるだけでこれほど熱烈歓迎されるとは思ってもいなかった。


 徹夜のまま朝を迎え水場で顔を洗っていると、セリナが寄って来てあまり飲むなと説教されてしまう。

 酒を飲む人は嫌いと駄々をこねだして宥めるのが大変だった。


 オリエッタはというとマイペースで下着のまま歩いている。

 羞恥心はどこに置き忘れた!

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