第09話 グレート・ザ・パチモン
我々は薄暗い地下墓地に侵入して、通路の先に小部屋が見えている。ゲームと同じく壁に埋め込まれた照明は自動で作動するようだ。
セリナは私の背後にぴったり密着して歩いている。というより抱き着かれているといったほうがいい。
私は小部屋の先にいるモンスターの動きに合わせて前に進んでいる。
振り返ってセリナの顔を見る。頭を軽く触れるとセリナは頷いた。
私はタイミングを見て前に飛び出す。
左右にいる人型モンスターを切り殺す。
死体を確認するとオークに似たモンスターだった。
その後はセリナのが背後に移動するのを待って、オークを殺していく。セリナは死体を見ても平然としている。
おそらく、現状では自分自身の手で人型モンスターを倒せないだろう。
避けたとしても、試練の時は必ず訪れる。
私はセリナの緊張でこわばった顔を見つめて不安になる。人の気も知らず、セリナは無理して笑った。
小部屋のモンスターはすべて倒し終えた。モンスターは一定の時間が経過すると再び生まれ出ることになる。
瞬時に現れないようだ。
最奥を目指して通路を進んでいると、目的地の大部屋に行きついた。
「セリナ、すべての職業ギルドのスキル開放クエストは、ここのボスを倒すとクエストが完了する。一度ですべてのクエストが達成になるはず」
「二個とも?」
「あぁ、変なところでイージーモードになっている。ゲームと同じであれば」
「違ったらどうするの」
「ここでキャンプすることになるな」
セリナは嫌そうな顔をして、恐々と後ろを向いた。
私だってこんな場所に長居するのは御免だ。早々に終わらせたい。
「いいか、ここで注意しないといけないのは、雑魚モンスターが周期的に沸くことだ。そして、一定時間ですべての敵を倒さないと前提クエストが失敗になる」
「前提?」
セリナが首を傾げた。
「ああ、さっきの青いコボルトと同じで、ボス出現のトリガーになっている。厄介なことに雑魚は壁の光源を好み攻撃的ではなく、こちらに寄ってこない。だから、セリナにはこの石を投げて、雑魚敵をこちらに誘い出してほしい」
「当てる自身ないけど……いいの?」
「音がすると寄ってくるはずだ。弱いし襲われても怪我はしないから、石を投げたら私の近くまで戻ってきてほしい」
「うん」
ボスは私が速攻で討伐するとして、トリガーモンスターの雑魚敵を殲滅しないとボスが現れないはず。新人が加入するたびにこのクエストをサポートしたので間違いない。
「セリナはなるべく中心付近にいて近いモンスターにだけ石を投げればいい」
「わかったよ」
私は大広間のモンスターを手あたり次第に殺戮している。
俺達は大部屋の中心に到達した。セリナが石の入った袋を足元に置くのを確認して攻撃を開始した。
俺は遊撃に徹している。セリナは壁際に湧き出したモンスターに石を投げては私を見つめる。
怖そうにしているが、役には立っている。
近寄るモンスターを殺しては、セリナの死角の敵を切り殺していく。
惰性で殺戮していると、地響きと共に壁が崩れ落ちた。
粉塵が舞い上がる。
塵を掻き分けて真っ赤なオーガが現れた。
奴は私を見つめると睨んで咆哮をあげる。私は雑魚を無視して、オーガの肩に飛び乗ってクイックモーションで首を落とした。
敵の死体は黒い霧となって、徐々に消え失せていく。
足元にはドロップが散乱していた。
私は振りかえって、セリナの様子を確認する。
とくに問題はないようだ。
「セリナ来い」
恐怖にひきつった顔で一目散に駆けてくるセリナ。笑いそうになったが、真剣さが伝わり手を繋いでやった。
「怖かったよ」
「大丈夫だ。でも、少しずつ慣れたほうがいいぞ」
「無理!」
私は頭を軽くなでて、ギルド手帳を確認してすべての職業ギルドのクエストが完了していることを確認した。セリナの手帳も確認したが問題なく討伐完了になっている。
ゲームと同じ設定であるが、緊張感がまったく違う。敵が強くなり難易度が上がれば、容易く討伐できないだろう。
早めに次のメンバーを勧誘したいところだ。
「ねえ、これドロップだけど必要?」
「どれ、かしてみろ」
エンチャントオーブだった。ユニークではないが序盤は出にくいので保管することにする。
「しばらくの間は、今拾ったエンチャントオーブと同種の物は無条件に保管してくれ」
「うん。大切なものとして保管する」
なぜかオーブを強く握って天井に向けて掲げて自慢そうにしている。どうして気に入ったのか見当もつかない。きっと、セリナは光り物が好きなのかもしれない。
楽しそうで何よりだ。
墓所のクエストは無事に終わり、死臭のする場所を後にして町に戻っていた。
町に近い草原に差し掛かったところで冒険者が揉め事をおこしている。私としては揉め事に巻き込まれたくない。
無視して通り過ぎようとしていたのだが、セリナが私の手を振りほどいて走っていく。
驚いた私も後を追う。
揉め事の中心で女が突き飛ばされて転んでいた。
隣には魔獣と思しきものがこちらに背を向け不動の姿勢で突っ立っている。
「ゲェーッ!」と鳴く怪しい大型魔獣。
召喚術か召喚の加護だな。
突き飛ばした側のパーティーメンバーは、転んで放心している女を残して町に帰っていく。どうやら女はパーティーから追放されたようだ。昨日の冒険者ギルドでも追放騒ぎがあり、それに続く二回目の追放だなと私は悠長に考えていた。
セリナが私の手を取って訴える。
「あの子を仲間に誘えないかな?」
「なぜ?」
「なんとなく……」
泣き出しそうな顔をセリナがした。私は情に流されてしまい、とりあえず女の話を聞くことにする。
女は私と同じくらいの肉体年齢のようで、腰より長いブルネットの髪をミディアムアップにして赤みを帯びた琥珀のような瞳がミステリアスだった。身体はNPCのエミリアよりも良い意味で豊満だ……。
男好きする容姿なのになぜ捨てられる?
「見たところパーティーから追放されたように見受けたが、理由を聞かせてくれないか?」
「こ、困ってないし、他人に話すことはない!」
いきなり否定された。ハイさようならと別れるわけにいかないし、セリナの顔をみながら頷いた。何か語りたいようだ。
「ねえ、強がらなくていいのよ。何か思うことはあるはず。話してくれないかな?」
セリナは妙に大人びた物言いで女を説得する。女はあからさまに目を泳がす。
図星を指された格好だ。
訳ありとはいえ、確認はしておきたい。
「言いたくないなら聞かない。君はこの後どうするつもりだ」
「あたしは……この子がいるから虐められる」
まるで精神は子供のようだ。どうなってる。
私は魔獣を観察しようと振り向くと、珍獣が私を見つめ口を開ける。
毛は妙に長くふさふさしていて白熊ボディーに顔はナマケモノ、手は鶏の雛ような未熟な翼。
眼、鼻、口の位置は目隠しして出来上がった福笑い。失敗作ともいう。
オッドアイなのに上下斜視。
女よりもそちらに意識が行ってしまう。
何だこいつは!
「わるいが、これはなんていう魔獣なのか……教えて欲しいのだが」
「あたしの加護は聖獣。それなのに、この子はパチモン!」
おい、パチモンはやめてあげてくれ。
ゲーム中で出会ったことはないが聖獣とか精霊は超絶レアだ。希少性では私の勇者に等しいだろう。
それよりもこのデカブツが聖獣? 何かの間違いだろう。
セリナは狂気誘う聖獣が不憫なのだろうか……。
立ち話は流石に目立つので、町に帰って夕食をおごって話を聞くことにした。場所はいつものセリナお気に入り食堂だ。はっきり言って特徴のない店。
席について話を聞きはじめた。
聖獣はとにかく邪魔で居ないものとして扱い、女に追放理由を確認した。
要領を得ない話を要約すると、コミュ障による意思の疎通に難があり、身勝手な行動に起因して追放されている。本人はそれを認めないし、今更責めても何も変わらないだろう。
受け答えに難はあっても根は真面目そうで、矯正できる可能性があると判断してた。嫌々であるが女と従魔を受け入れることにする。
そうなれば、まずは自己紹介だ。
「私はハワードでこっちの聖女はセリナだ。君の名は?」
「あたしはオリエッタ」
「明日から一緒に活動することにしようオリエッタ。ところで泊まる宿はあるのか?」
「ない……」
「それなら、セリナと一緒の部屋でよければついてこい」
「いいの? 歯ぎしりするけど」
一瞬耳を疑って、オリエッタとセリナを交互に見てしまう。
「わたしは気にしないよ。ペットも一緒でいい。モフモフしたいから」
「ありがとう。でも変わり者だね。こいつの名前はパチモンで登録してる」
あぁ、ギルドで従魔登録していれば名前は変更不可だ。哀れだぞパチモン。
「モンスターみたいで可愛くない?」
「そう? こいつウザいから好きにして!」
オリエッタは従魔に蹴りを入れて笑った。
呆れてしまうが、これがオリエッタの平常運転なのかもしれない。
我々はその足で冒険者ギルドに立ち寄り、パーティー登録を済ませてしまった。
明日から冒険者として一緒に行動することになるだろう。
そして、次の目的地の職業ギルドに立ち寄り、クエストを完了させてスキルツリー開放を終わらせた。これで当初の目的は達成したことになる。
次にすることはスキルの取得だ。
今から楽しみである。
オリエッタはスキル開放しなかったので、クエストだけ受注させた。明日にでもスキルツリーを解放してしまうことにする。
セリナとは普通に会話できるようになったが、気分の浮き沈みが激しい。
少し心配だ。
宿屋は昨日の失敗から早めに予約していた。
夜になり何もすることが無くなったので、取得スキルの厳選と構成を考えている。私の趣味はスキルビルドの考察だ。
どのスキルを取るかは状況次第であるが、レベリングに適したビルドに寄せる必要がある。
スキルは決まったが、連携が取れるかどうかが課題になるだろう。
前途多難である。
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