第15話 神話
僕のイラストがこの世界で特異であることは、さておき。
「……って、こんな悠長に話してる場合じゃなかった。早速、神様たちをデザインしていこう。あ、ちなみに、キーファはどこへ?」
「キーファは日々のお仕事中です。家事とか、家屋の修繕とか」
「家屋の修繕をするのが日々のお仕事……。不思議な修道徒……。まぁ、いいか。僕はデザインをしよう」
「そうですね。お願いします。では……ひとまず、愛と豊穣の女神でどうでしょう?」
「スフィーリアが信仰している神様だね? うん。それでいこう。一体……一柱? につき一時間程度しかかけられないんだ。とにかく急ごう」
「一ジカン……?」
「ああ、僕の世界での時間の単位。一日は二十四時間で、かなり正確に時間を計ってる。こっちではどうなのかな?」
「へぇ、正確に時間がわかるのですか? テラミリス王国では、一日を十二で分けます。太陽の動きで時間を計るので、季節ごとに分割される時間の長さが変わりますね」
「不定時法って奴か……。それに、その分け方と時間の捉え方は、僕の故郷で昔採用されてたものだね。時間の単位は『刻』」
時間の捉え方はわかったけれど、結局一日が何時間なのかは不明だ。スマホを起動すれば計れるけど、あえて計らなければいけないわけでもないな。
「えっと、僕はとにかく、半刻に一柱ずつくらいのペースでキャラデザをしないといけないわけだ」
「三日間は三十六コクあるので、もっと余裕を持ってもいいと思いますが?」
「それ、僕に不眠不休で働けってことかな!?」
あはは!
スフィーリアがまた笑う。見とれてしまうね、本当に。
「さて、ではそろそろ始めましょうか」
「うん」
「まず、愛と豊穣の女神ラーヴァの外見です。その髪は、天の国にのみ咲く黄金花のように美しく鮮やかな金で、長さは足首まで届くそうです。瞳は日の光に煌めくサファイア。美の女神に劣らぬ美貌を誇り、特に豊満な胸を持っているそうです。そして……」
スフィーリアの語る特徴を踏まえ、聞くと同時に手も動かす。その方が色々とイメージも広がりやすい。
試行錯誤しながら、引き続きラーヴァについての特徴やエピソードを聞く。
エピソードの中でちょっと呆れてしまったのが、このラーヴァ、どうやら何十人もの男性神、あるいは人間の男性と関係を持ち、数百人もの子供を産んだとされているらしい。手を止めて唖然としている僕に、スフィーリアはふふとおかしそうに笑って言う。
「愛と豊穣の女神って、要するにセックスの女神ですからね。それはもう、たくさんの男性と交わりますし、孕みますし、産むんですよ」
スフィーリアは朗らかに笑っているけれど……僕はその発言に赤面してしまった。この世界の人、こういう話におおらかなのかな……。
「へぇ……そうなんだ。節操がないように思えてしまうのだけど……」
「いいんですよ、神様なんですから。人間の倫理観なんて関係ありません。それに、多産でありながら、ラーヴァはその子供たちをきっちり愛し育てていったそうです。ただ愛欲に溺れる女神ではなく、母親としての勤めを果たすのですから、立派だと思います」
「それはそうなのかも……」
「それに、女神様って何年生きてるかわからないくらい長い時間を生きてるんですよ? 何万年とか、何十万年とか? そりゃー、色んな男性と関係を持ちたくもなりますよ。わたしだって、百年程度なら一人の男性を愛し続ける自信がありますが、一万年となるとちょっとわかりません」
「……確かに、一万年は途方もない」
「中には、一度だけ結婚してずっとその相手とだけ愛し合う神様もいます。けど、そんなのはごくまれで、主だったところだと結婚の神様くらいですよ。ただ、この夫婦も色んな紆余曲折があります。結婚の神様なのに、離婚の危機が何度も訪れるんですから、笑ってしまいますよ」
「ええ? 結婚の神様なのに?」
「はい。結婚の神様なのに、です。ただ、これは、夫婦とは順風満帆なときばかりではなく、何度も危機が訪れるものだという教訓的な意味合いもあるのでしょう。
こんなお話もあります。
結婚の神は男性神アドニルと女性神ジュリアルの二柱でセットなのですが、あるとき、アドニルは愛と豊穣の女神ラーヴァに『私と子作りしませんか?』と誘われます。アドニルはそれを断るのですが、一瞬心が揺らいでしまい、それをジュリアルに悟られます。
ジュリアルは怒り狂い、アドニルの男性器を切り落とし、それを長きに渡って隠してしまうんです。アドニルは平身低頭、ジュリアルに謝り続け、どれだけジュリアルを愛しているかを語り続け、ようやく許してもらえたのだとか」
「……一瞬心が揺らいだだけで、酷い仕打ちだ。っていうか、それ、切り取られたものはどうなるの?」
「ジュリアルから返してもらった後は、元通りに治ります」
「治るのかぁ……。流石神様……」
「そして、元通りになった体で、二柱は一ヶ月間、ひたすらセックスに励んだそうですよ?」
「……やれやれ」
反応に困るね……。
「長きに渡る禁欲生活から解放されて、二柱は大変燃え上がったそうです」
「だから、反応に困るってば!」
「そうですか? 仲直りした夫婦がちょっとはっちゃけたっていうだけのお話ですよ?」
「軽い……。この世界、こういう話の扱いがおおらかだね……」
「アヤメ様の国とは違いますか?」
「ん……たぶん。男女の営み的な話は、あまりあけすけにはされない、かな」
「そうですか。禁欲的なのですね」
「そこまではいかないけどね。っていうか、スフィーリアは聖女だし、禁欲的な生活をするのが良いとか言われてないの?」
「特にないですよ。ルキアルト教はその辺緩いです。もちろん、節度のある生活を送れとは言われますが、それは誰でも同じでしょう?」
「それはそうだ」
僕の場合、教会と聞くとキリスト教的なものをイメージしてしまうけれど、ここは全く異質であるらしい。世界が違えば、神様や宗教に対する考え方も違うんだな。
「ちなみに、結婚の神様の話の続きですが。二柱が燃え上がった七の月は特に夫婦の交わりを奨励する期間となり、四の月頃に生まれる子供が増えます。あ、補足ですが、一年は十二ヶ月でして、七の月に仕込むと、だいたい九ヶ月後の四の月に子供が生まれます」
「……なんとまぁ」
っていうか、仕込むとか言うな。あんた、聖女だろ。性女とか言われるぞ?
「ま、これもある意味生活の知恵ですよ。真冬の出産を避け、春の出産を促すことを暗に示していると言われています」
「……深い話というか、何というか。色々と突っ込みどころはあるけど……とりあえず、ラーヴァさん、既婚者を誘っちゃダメでしょ……」
「ですよね。けど、神様って本当に奔放なんですよ。生きていく上でのルールも倫理観も人間と全く違います」
「そんなもんか」
「そんなもんですよ」
色んなエピソードを聞いていると、当初のイメージが変わっていく。ラーヴァについて、最初はただ優しく包容力のある感じをイメージしていたが、少し意地悪で艶っぽい雰囲気も追加したくなった。
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