第11話 嫌いじゃない
スフィーリアは、僕を不安にさせないために少し無理をして笑ったのかもしれない。
でも、あまり心配はいらなさそうだ。
なぜなら。
「あああああああああムカつく! 死ねええええええええええええ!」
スフィーリアが絶叫しながら杖を振り回し、リーキスに似た造形の土人形を粉砕する。割と丈夫にできていたはずだが、一撃で屠ってしまった。
土人形は三十体ほどあり、次々にスフィーリアがそれらを粉砕していく。どうやら、ストレスが溜まるとこんな形で発散するらしい。ストレスを溜め続ける状態になっていなくて良かった。
しかし、そもそも杖って殴るためのものだっただろうか? 壊れないの?
なお、ここは裏庭で、周りに人の姿はない。表には農作業をする人がいたので、目撃されないための配慮である。声も魔法で遮断しているらしいので、余計な心配はいらない。
「……キーファさん。あの杖、壊れないの?」
「キーファでいいですよ。礼拝堂を守ろうとしてくださいましたし、仲間……のようなものとして認めます。危うく頭をかち割られて死ぬところでしたが」
「え、僕、死にかけてたの?」
「あれが当たってたら死んでましたね。間違いなく」
「……そう思うとぞっとする」
「ぞっとしたのはこっちですよ。椅子なんて替わりは利くんですから、命を優先してください」
「うん……」
女の子に杖で殴られてもちょっと痛いくらいかと思ったけれど、こっちは魔法があるからな。油断はできない。
「それでですが、杖の心配はいりません。易々と壊れるものではありませんので」
「でも、魔法を使うための道具では? さっきあの土人形を作ったみたいに」
「魔法を使うためのものではありますが、丈夫に作られているのも確かです。棒状の丈夫な何かがあれば、それを殴るために使うのは自然なことでしょう?」
「うん……まぁ……」
そういう世界観なのだ。受け入れよう。あれは魔法の杖、兼、メイスだ。
「それにしても……リーキスって子にはいいようにやられていたけど、抵抗はしないの?」
「残念ながら、戦力的にはリーキスとトビーの方が上です。あたしとスフィーリア様はこれでもそれなりの戦闘力がありますが、力を合わせてもあの二人には敵いません。
全面戦争で大怪我をするより、リーキスの気が晴れる程度の軽い被害で済ませるのが、スフィーリア様の方針です」
「そう……。理解はできるけど、納得はしたくないな。取り締まる人はいないもの?」
「いませんね。教会関係者はリーキスを放置しますし、町の衛兵などは教会の内輪揉めに関わろうとしません。自分たちでどうにかするしかないんです」
「そっか……。悔しいな……」
「まぁ、いいですよ。いつまでもあんなのにいいようにやられているつもりもありません」
キーファがニヤリと黒い笑みを浮かべる。
「何か対抗策があるの?」
「ありますよ。内容は秘密ですが」
「そっか。それでも、策があるなら安心だ」
スフィーリアもキーファも、やられっぱなしで終わる性格ではなさそう。
二人が何かしら策を練っているのなら、きっと大丈夫。僕は余計な口出しをすまい。
「それにしても、リーキスは何者で、なんであんなに横暴な態度なのかな?」
「本人が言った通りです。正義の女神ジャスカに仕える聖女様。スフィーリア様とは違い、変な勘違いをして、性格がねじ曲がってしまっているんです」
「勘違い……?」
「自分は神様に選ばれた特別な存在なのだと、勘違いしているんです。ジョブなんて何が基準で与えられるかもわからないのに」
「そっか……」
状況ははっきりしないが、突然凄い力を与えられて、さらには周りからも変にもてはやされるなどして、精神を歪めてしまったのかもしれない。
「とても好きになれそうにない子だったけど、ちょっと可愛そうかも」
「……はぁ? 可愛そう? 単にムカつくだけでしょう?」
「でも、あの子ってまだ十四歳くらいでしょ? それなのに、あれだけ心が捻れてしまっているのは……可愛そうに感じるよ。育ち方が違えば、もっとまっとうな人になれたかもしれないのに」
僕の言葉に、キーファは呆れて溜息。
「あなたは優しすぎますね。慈悲の女神でも信仰してるのですか?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「あれを見てもただ苛立つだけじゃないって、よほどの変わり者ですよ」
「そう? ダメかな?」
「ダメでは、ないです。……そういうところも、嫌いじゃないです」
キーファがふわりと大人びた笑みを浮かべる。僕から見てもまだ幼い容姿なのだけれど、心は日本の十一歳よりずっと大人びている気がする。
だからって、異性として意識するとかではないのだけれど。
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