第7話 女神
僕が召喚された場所は、テラミリス王国の南西にある、ナギノアという町。教会施設の辺りは畑が広がっているけれど、近くに都市部があり、そこは人で賑わっているのだとか。
この世界には魔法が存在し、同時にモンスターも出現する。ただ、強いモンスターが出没する地域は決まっていて、闇の魔力が溜まりやすい場所だけ。それ以外で出没するのは、訓練している人間なら勝てる強さの低級モンスター。
人が住む場所にはほとんどモンスターが入ってこないように警備されているので、基本的にはモンスターに襲われる心配はない。戦う力のない僕にはありがたい話だ。
キーファはやはりダークエルフという種族で、この世界には人族以外にも色々な種族が共存している。エルフ、ドワーフ、獣人、その他色々。人族の町で暮らす者も多いらしいが、それぞれが集まっている町や村も存在する。
キーファの生まれはダークエルフの里なのだが、より広い世界を見たいと、里を飛び出したそうだ。その後紆余曲折あり、流れ着いたこの町でスフィーリアと友達になった。今では修道徒として一緒に生活しているのだとか。
スフィーリアが所属しているのは、ルキアルト教。多神教であるらしく、様々な神様が神話の中に登場する。どれもが個性豊かで、面白味があるのだが、わがままな神様も多いので、スフィーリアは神話の神様を心底崇拝することはできないらしい。ただ、信仰を別にすれば、神話も神様も好きなのだとか。
なお、僕からするとファンタジーの世界で、神様が実在していてもおかしくないと思うのだが、ここでも実際に神様の姿を見た者はいないらしい。いや、見たと主張するものはいるが、誰もが見られるものではない。この辺は地球と同じかな。
そんな中、スフィーリアは元々王都テラミルで聖女をしていたらしい。
聖女になる条件はシンプルで、『聖女』のジョブを持っていること。
ジョブ、そしてスキルというのは、女神の涙という魔法具を使うことで、十歳以上の全ての人が身につけられる。ジョブは神様が与えてくれると主張する人もいるが、詳細は不明。
さておき、スフィーリアのジョブが『聖女』だったため、国の方針で国教であるルキアルト教の聖女として迎え入れられた。本人の意思とは関係ないことなので、特に熱心な信者でもないスフィーリアは、聖女であることにさほど執着はないそうだ。
そして、テラミリス王国には三人の『聖女』が存在していて、それぞれ所属している派閥が違う。
ルキアルト教には三大派閥が存在し、愛と豊穣の女神ラーヴァ、戦の女神ウォーラ、正義の女神ジャスカを主に信仰している。
スフィーリアは、愛と豊穣の女神を信仰する派閥に所属。
通常なら、スフィーリアは王都で暮らしていくはずだった。しかし、半年前、他の聖女の謀略により、教会にとって大事な魔法具を破壊したという罪を着せられてしまう。
結果、スフィーリアは、王都から離れたこのナギノアの町に左遷されてしまった。
ラーヴァを信仰する派閥からするとかなりのダメージなのだが、スフィーリアとしてはさほど気になることではない。そもそも教会勤めもしたくなかったし、聖女にもなりたくなかった。覇権争いにも興味はない。
「……と、前提としてはこんなところですね。それで、最後に、私がアヤメ様に壁画を依頼した理由ですが……」
「おぉ……っ」
今、呻いたのはキーファである。どうしたのかと思えば……素っ裸の女の子イラストを見つめていた。スフィーリアの説明の間、ずっと僕のイラストを眺めていたが、ヌードイラストを発見してしまったようだ。
待て待て、それは日本基準なら十八禁指定されかねないもの。こんないたいけな女の子に見せて良いのか?
僕の感覚ではアウトなのだけれど、キーファは平然としているし、スフィーリアもとめない。こっちの基準だと問題ない、のかな?
「……なんと、美しい女神様」
キーファがまた涙ぐむ。女神との対面……みたいな雰囲気になるの、どうにかならない? 大袈裟すぎるよ?
「彼女の名前は? どういった女神なのでしょう? 察するに、美の女神か愛と豊穣の女神といったところでしょうか?」
スフィーリアもそんなこと言ってたなぁ。
でも、それはただの普通の人間で、女神ではない。ここできちんと説明を……。
そう思ったのだけれど、キーファのうっとりした表情を見ていたら、「それ、ただの人間の女の子」とは言いづらくなってしまった。
くっ……。嘘を吐くのは気が引けるけれど、これはたぶん、吐いて良い嘘だ。キーファとスフィーリアの夢を壊してはいけない。
僕の描く女の子は、本日から女神になった。うん。それでいい。……ただのエッチなイラストだよ、と打ち明ける勇気がないというわけではない。断じて!
「えっと……名前は、
ということにしておこう。なんかそれっぽくなったし、きっと大丈夫!
そして、モデルにした撫子花恋さん! あなたはこっちで女神様になりました! ごめんなさい!
……僕以外に日本人がやってくることなんてそうそうないだろうし、誰にも咎められはすまい。きっと!
「なるほど……。純真の女神ですか……。確かに、美の女神などにしては、少々胸の膨らみが控えめだとは思いました」
撫子さんに謝れ。
じゃなくて。
いや、撫子さんだって決してぺったんこなどというわけではないのだ。普通にある女の子なのだ。巨乳とかの部類じゃないだけで。
むしろ、僕が撫子さんに謝るべきか。僕の声は届くはずもないけれど……色々と、ごめんなさい。
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