厄介ごとの、ミルフィーユ 3
イスキィの道案内でミュアーズ池に向かう。
その途中で、魔導具に大量の反応が現れて、バッカスたちはぎょっとした。
「マジで反応が固まってやがるな……」
「動いているのは全部ゾンビか……」
「知性のありそうなのやつの気配がいくつもある……面倒な」
ともあえれ、サンタスと合流しなければ――と、イスキィに促されて三人も動く。
「しかし、ミュアーズ池か。
お前らやストレイたちは、ここまで調べなかったのか?」
バッカスの疑問に、ロックが肩を竦めた。
「少しずつ調査範囲は広げてたんだが、ここを含めて奥まった場所はまだなんだ」
「向こうのパーティはストレイが一時離脱してたしな」
「それもそうか」
知性のないゾンビは強い相手ではないが、それでも片手がない状態で戦うのは危険という判断だったのだろう。
「たまにブーディちゃんやユウ君が協力してくれけどね」
「おかげで俺の面倒は軽減されたが、そもそもの面倒ごとが大きすぎて焼け石に水だ」
モキューロの森は広いし、アイクやブーディ並に動ける斥候となると、そう多くはない。
ましてや普段とは異なる空気を放つ森というのは、ベテランでも厄介だろう。
「ミュアーズ池だって、バッカスさんの魔導具がなければ近づく気はなかったしね」
「ん? どういうコトだ?」
「この魔導具があれば手前から、奥の方の探知が出来るからね」
なるほど――とバッカスはうなずく。
「その結果、これか」
「見に行かないといけない――ってなるだろう?」
アイクとロックは知性あるゾンビと戦闘中。
少し離れていたイスキィとサンタスは、危険地帯を調査中。
バッカスは双方の中間地点にいたワケだが――
「ところでお前ら、森に入る前のフォローしあえる距離って話はどうなってんだ?」
「うちのモットーは臨機応変だ」
「自由気ままの間違いだろ」
ロックが真顔で告げるその言葉に、バッカスはやれやれと肩を竦めてみせた。
・
・
・
「サンタス」
「来たか、みんな」
ロックに声を掛けられ、サンタスが安堵したような顔で振り向いた。
「サンタス、どこだ?」
「ここから見える。池の中心付近」
「黒い岩しかなさそうだぞ?」
「その黒い岩だ」
バッカスとロックは呼吸も気配も殺して、黒い岩の様子を伺う。
探知の魔導具は確かに、あの岩から複数の反応を観測しているようだ。
よく見れば確かに、複数の剣が突き刺さっている。
「デカいな。この位置から見てもあの大きさとなると……」
「……岩の高さは、俺やバッカスと同じくらいか?」
岩が何か分からないが、目測で色々と測っていると、横でアイクが震えているのに気がついた。
「アイク?」
「……
「え?」
「あれは、全高がバッカスやロックと同じくらいの、
だとしたら、あれの実際の大きさはいかほどか。
人間をひと呑み――どころではないだろう。
「ついでに、ツギハギされたかのような
「よく見えるな……」
「視力関連を強化する彩技みたいなモンだ。
あの魔獣、
アイクの言葉を聞いて、バッカスは慌てて黒い岩へと視線を向けなおす。
「池の周囲のゾンビの動き……あれを守っているのか?」
周囲を見ると、多数のゾンビが蠢いている。
人間型だけでなく、動物型や魔獣型も多い。
「恐らく餌も兼ねている」
「サンタス?」
「何匹か、ゾンビが入水自殺するかのように岩に近づいていって、そのまま消えた」
つまり、あの
「それと、気持ちの悪いカエルの子供みたいのも、池に増えてる」
「オタマジャクシじゃなくてか?」
「分からん。全身紫色で、オタマジャクシに似てるが、顔がなくてのっぺりした感じの……」
「帰るぞ」
サンタスが全てを言い終える前に、バッカスは冷や汗混じりに告げる。
「お前らが発見して、俺が退治した未知のバルーン……覚えているな?」
ロックたちがうなずくのを確認して、バッカスは続ける。
「俺の書いたレポートは読んだか? その生態」
「周囲のモノを取り込んで自分のモノにするって特性を持ってるらしいな」
「……大本の姿――あるいは幼態だと思われる姿は、紫色のオタマジャクシみたいな奴だ」
瞬間、ロックたち全員が顔を上げる。
「なら、池に増えているのは……!」
もしかしたら、あの
「バッカスが言う通り帰るぞ。
アレを暫定的に、
ロックは有無は言わさないとでもいうような雰囲気で告げる。
メンバーもそれに反対する者はいなかった。
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