男はみんな、立派な魔剣を持っている 7
ふとした気まぐれでこんな時間に更新٩( 'ω' )و
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ある日のお昼時、ギルドマスターであるライルからの使いとして、ルナサとミーティがわざわざ工房へと報告しにきてくれている。
「――そんなワケで、森とゾンビの調査は進展がないみたい」
「まぁ、そうだろうな」
とはいえ、その報告内容そのものは、バッカスも予想していたものだ。
「それと、剣の刺さったゾンビをふつうのゾンビと区別する為に、暫定的に
「確かに、ふつうのゾンビとは違うしな」
呼称がついたからどうこうというワケではないが、単にゾンビと呼ぶだけなのは危険でもある。
ただのゾンビと勘違いして、自滅の末にゾンビ化するようなバカがいてもおかしくないのだ。
もちろん、呼称を変えた程度でそういうのがいなくなるワケではないのだが……。
それでも、一人でも足を止める者がいてくれるなら、効果があるといえる。
「しっかしまぁ――やっぱ、モキューロの森から原因だろう魔剣を探すのは厳しいか」
バッカスが独りごちると、ミーティがそれにうなずいた。
「広くて鬱蒼とした森ですしねぇ……小型でも剣とか斧とかならまだマシで、指輪とかだったら、探すの無理ですし」
「それなんだよなぁ……。
そもそも大本の形が分からんから、探すといっても雲を掴むような話ではある」
ミーティの指摘はもっともだ。
調査をするにも、あまりにも情報が少なすぎる。
魔剣であること前提に動いているものの、そもそも魔剣ではない可能性もゼロではないのだ。
「なんかそういう魔導具とか魔剣造れないの? 魔剣を探したりするようなやつ」
「ンなコト言われてもなぁ……」
ルナサの言葉に、バッカスはうめく。
確かにそんな魔導具なりなんなりを造れれば進展しそうではあるが。
バッカスが思案していると、ミーティが何かを思いついたのか声をかけてきた。
「バッカスさん。ゾンビに刺さってた剣の破片使えません?」
「どういうコトだ?」
「あの破片って独特の魔力を内包してるじゃないですか。
だから、同質の魔力を探知するようなの造れないかなって」
「……なるほど、な」
ミーティのアイデアは悪くない。
「だけどな。それだと、森のゾンビが全部引っかかるかもしれないぞ」
「あ」
森の中に結構な数のゾンビがいることは確認されている。
それらのすべてが探知に引っかかるのは、少々面倒だと思われるが――
「それは問題ないんじゃない?」
魔導技師二人の懸念を、直情魔術士は一蹴する。
「来週には王都から騎士たちが来るらしいじゃない。
それなら人海戦術も使えるんだから、その探知の魔導具がいっぱいあれば問題ないわよ」
「ルナサ、どう問題ないの?」
「え? 探知に引っかかったゾンビは全部倒せばいいじゃない。ゾンビの数が減れば減るだけ、その元凶ってやつを見つけやすくなるんじゃないの?」
「いや、そんな単純な……」
ルナサの強引な作戦に、戸惑いを見せるミーティ。
だが、バッカスはそれを悪くないと、うなずいた。
「乱暴だが確かに一考の余地はあるな。
探知の魔導具が造れるかどうかはともかく、ライルにはその作戦を伝えてくれ。その魔導具について、俺が少し考えてみると言っていたって」
「わかったわ」
可能ならばギルドや騎士に任せたいが、そうは言っても放置しておくワケにもいかない話だ。
解決法への光明が見えた以上、バッカスとしてはそれを試すのもやぶさかではない。
二人とそんなやりとりをしていると、工房の入り口から人が入ってくる。
「お邪魔するわ」
一緒に声のした方を見た二人が、「すっごい美人……」「大きい……」などと呟いているが無視をする。
「どうしたストロパリカ?
納品予定は明日だったはずだけどな?」
「そうなんだけど……」
何か言い掛けたストロパリカは、ルナサとミーティを見て言い淀む。
その態度を、ルナサはどう思ったのか、首を横に振った。
「あたしたちのコトは気にしなくていいですよ。
ここに遊びに来ているようなものなので。仕事の邪魔をする気はありませんから」
真面目な優等生然としたルナサの態度に、バッカスは疑わしげに片目を瞑った。
「お前ってさ、俺にだけタメな口の効き方するよな?」
「それはその……アンタの最初の印象が悪すぎて……今更、改まって喋りづらいというか……」
どうやら多少の自覚はあるらしく、どことなく申し訳なさを見せるが、改める気はないようだ。
もごもごするルナサを見かねたのか、ストロパリカが苦笑するように、口添える。
「もう、
「こいつが幼気であるかどうかは議論の必要があると思うけどな?
……って、以前にも誰かと同じやりとりしたな、これ」
「常習なのかしら? バッカス君がなのか、この子が、なのかは分からないけどね」
クスクスと笑うストロパリカの横で、ミーティが挙手をして告げた。
「はいはーい、両方だと思いますッ!」
「ミーティ……」
「お前なぁ……」
とはいえ、うまい反論も思い浮かばなかったので、ルナサもバッカスもうめくにとどまった。
「ともあれ、まぁコイツらは自分たちが言う通り遊びに来てるだけだ。客じゃねぇから無視してくれてもいいぞ」
「本当にいいの? もし受け取れるなら、依頼の魔剣――受け取りたいなって思ったんだけど」
「あー……」
失念していた――とばかりに、バッカスは天を仰ぐ。
武器ではないので定義としては魔剣ではないが、あれはある意味で魔剣である。
そして、ミーティが煌めくような眼差しをこちらに向けてきている。
満点の星空のようなその瞳は、是非とも見たいという意志の現れだろうが――
「ルナサ、ミーティ。悪いが出てって貰えるか?
彼女の依頼品は少々特殊でな。あまり人に見せたくないんだ」
ミーティはともかく、ルナサはあまり耐性が無さそうなので、見たら騒ぎそうだ。
「えー!」
「えー……じゃないわよミーティ。コイツがどんだけふざけた奴でも、仕事の邪魔をするのは違うでしょ」
「ルナサはルナサで一度とことん話し合った方が良さそうな気がしてくるな、おい」
ルナサのミーティを説得しようとする言葉がトゲだらけだ。
それを聞いたバッカスは犬歯を剥いてうめく。
そのやりとりを見ていたストロパリカは、苦笑を浮かべつつ二人に告げる。
「私は
子供にはまだ見せられないモノだから、出て行って貰えないかしら?」
ルナサはともかく、こうでも言わないとミーティを説得できないと思ったのだろう。
だが、バッカスは天井を仰ぐ。
それは悪手だ。間違いなく悪手だ。
「……大人の……魔導具……ッ!?」
「あら?」
以前の暴走っぷりを思うと、さもありなん。
妄想たくましいルナサには効果が
顔を真っ赤にしてパクパクしはじめた。
そして、ミーティと言えば――
「幻娼のお仕事用魔導具……! 考えたコトもない魔導具ですね! わたし、気になります……!」
「あらら?」
さっき以上に瞳の中の星々を煌めかせている。
「ふつうのガキならそれでも良かったかもしれないがな、二人にゃ逆効果なんだよ、その説得」
「そ、そうなの……それは失敗したわ……」
どうしましょう――と本気で困った顔をするストロパリカ。
そんな彼女の様子を分かっているのかいないのか、ルナサが喚く。
「ミミミミミーティ! おおおお落ち着き、なさなさい! だ、だめよ! 出ましょう! 早く出ないと、は、は、は裸にされて、ナニかされちゃうわよ!」
「いやお前が落ち着け」
どうして魔導具の受領の過程で、無関係な子供を裸にしなければならないのか。
「大丈夫です! わたしは誰がどういう風に使うかとか興味ありませんから! むしろどんな魔導具なのかどんな効果なのかが気になります!」
「お前もだいぶ大丈夫じゃないコト言ってるぞ」
バッカスは盛大に嘆息をしてから、告げる。
「とっとと出てけ。遊びに来ても良いが、仕事は邪魔するなと言ったハズだ」
その瞬間、何故かミーティが
「は?」
条件反射でバッカスも魔力帯を展開。
同時に防御と無効化、どちらが必要になっても大丈夫なように、展開した魔力帯を二つに分けて、それぞれに必要な記述を行う。
テンパっていたルナサも急に二人が魔力帯を展開しはじめたので、慌てて自分も展開するが――
魔導技師として魔術が扱える必要があるので、ミーティも最低限は使えるのだが、あくまで最低限のはずだ。
本来であれば、魔術士としての練度の高いルナサが、ミーティの術に遅れをとることはない。防御にしろ無効化にしろ、例え後出しの形になったとしても、ルナサの方が展開速度も術式の記述も早いはずだった。
――ミーティの展開した魔力帯はルナサの頭部を覆う。
しかし、ルナサは状況に付いていけていない為、自分の展開した白紙の魔力帯をどう扱えばいいのか判断できていなかった。
それが致命的だったといえるだろう。
「甘い砂糖は夢心地」
ルナサを包む魔力帯に、青の神の眷属、眠りと夢の神に関する術式が記述され、ミーティの魔力が流れる。
次の瞬間、ルナサはその場でくたりと倒れた。
そして、彼女は床に倒れたまま気持ちよさそうな寝息を立て始める。
ルナサの意識が途切れたので彼女が展開していた魔力帯は勝手に霧散。
とりあえず工房には影響がないと判断したバッカスも、準備していた魔力帯と術式を破棄した。
「……で?」
困ったようにバッカスが訊ねると、ミーティはとても良い笑顔で答える。
「恐らく一番お仕事の邪魔になるだろうルナサを寝かせました!」
「…………で?」
「わたしはどんな卑猥な道具にも偏見はありません!」
「……俺にとって、お前は最後の砦だったんだがな、ミーティ……」
今後、常識人としての最後の希望はテテナに託されたかもしれない。
先日一緒に採取をした期待の新人を思い出しながら、バッカスは盛大に嘆息する。
「まぁ邪魔にはならねぇと思う。いいか?」
「良いも悪いも、断りづらいわよ、この状況」
「だよなぁ……」
やれやれと、何度目とも分からぬ嘆息を漏らすバッカス。
そんな彼の心境なんて気にしてはいないのか、まだ見ぬ魔導具に思いを馳せ、恍惚とした表情を浮かべているミーティ。
そんなミーティを見ながら、ストロパリカが真顔で告げた。
「彼女、将来有望そうね」
「どういう意味で言っているのかは、問わねぇコトにするわ」
ひどく疲れた様子で、バッカスはまたもや嘆息するのだった。
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