第9話 第二章 奮闘④
「では、皆さーん。もう始めちゃいますねー。オールワールドフェスティバル二戦目。チーム対抗バトルは、どの企業が勝利を掴むのか? 私たちは今日、歴史の目撃者になっちゃう! それでは参りましょう。ディメンションファイトレディ! 三、二、一、ゴォオオオオオオオオオオウ!」
高らかに響く開始の合図。しかし、両チームとも動かず慎重な立ち上がりのスタートとなった。
「……」
「……」
……長い。あまりの長さに、業を煮やしたマリアが空の女王シックを指出す。シックは、妖艶な美女だ。服装はセクシーの一言に尽きる。布で要所を隠しているだけで、ほとんどが肌を晒し、手には巨大な鳥の羽のような武具が握られていた。
「ええい、埒があきませんわ。ちょっと、そこな女性、ワタクシと勝負なさい。破廉恥な恰好が気に入りませんわ」
自分のことを棚に上げ、マリアが叫ぶ。
シックは、蛇のように体をくねらせ冷笑した。
「へー小娘が吠えるじゃない。よーしよし、遊んであげようか。あんたらは、残りの小坊主どもを相手しな」
それが皮切りとなって魔道の天才シルベと剛山崩しのバダが、護とカルフレアに歩み寄ってきた。
ハア、とため息が一つ。それはカルフレアから零れたものだ。
「かああ、俺があっちの美女と戦いたかったのにー。ああ、しゃーねーか。護君よ、俺達があの陰険ミイラと筋肉ダルマの相手しようじゃねーの」
ひどい言い草だが、特徴を上手く捉えている。
陰険ミイラ……魔道の天才シルベは異様な風貌だ。全身に包帯を巻きつけ、目の部分だけが二つ穴が開いている。彼……いや、彼女かもしれないが、唯一人間らしさを感じる目が、カルフレアを捉えていた。
――ということは。
護は、筋肉ダルマもとい、剛山崩しのバダへ意識を向け、ランスを構えた。
バダは、緑のモヒカンヘアーに筋骨隆々の肉体の持ち主。上半身は裸で、拳には棘付きのグローブがはめられている。――どこか既視感があるような。
ふと、ある男の映像が護の頭によぎったが、首を振って雑念を消す。
バダが拳を構え、殺意を漲らせた瞳で護を睨む。臨戦態勢……来る!
距離にして十メートルはあったが、すでにバダの拳は護の眼前に迫っていた。
手に持った大盾で防ぐと、ハンマーで打ち付けられたような衝撃が左手を駆け抜ける。
――強い。ギュッと心臓が握られた気がした。
「こ、のおおお」
突き出す槍先。それをバダは巨体に似合わぬステップで繊細に躱す。
「お前、そんな程度か?」
低い声で嘲笑するバダ。
ボクシングのような動きで無駄なく槍を避けつつ、鋭くコンパクトに拳を放つ。
護は、鎧で拳を受け止めながら、槍を持つ手に力を込めた。
(まだ、この程度じゃ駄目だ。もっと回転率を上げて鋭い突きを放たないと、この人には届かない。もっと、もっと、あああ、もっとだああ)
元来、護が装備しているランスは、騎乗で使うことを想定した大型の武具だ。重く取り回しが悪く、地上戦で使うなど愚の骨頂。
しかし、護の並外れた膂力が、非常識を常識に変える。
突いて、突いて、まだ突く。何度でも、高速で唸りをあげて。それはさながら槍のテンペスト。――またの名を、【槍は踊り狂う(ランスダンス・クレイジー)】。
「届け、届け、何度でも。届け……届くまで突くんだ」
荒れ狂う刺突の暴力。
風切り音が唸りを上げるたび、観客の興奮を誘った。
「ぬうう」
バダは拳で穂先を弾き、ダッキングで槍をかいくぐり、ステップで躱す。
剛山崩しの名は、なにも怪力だけを褒めたたえたものではない。基本に忠実なディフェンス技能の高さが、敵の勢いをそぎ、調子を狂わせる。狂って戸惑って動きが疎かになった敵に、剛なる拳を叩きこみ崩す。それが、剛山崩しの所以だ。
護は、知っている。バダの特性を。ゆえに苛烈さを極めんとした。
これは根競べなのだ。
バダが護の調子を狂わせ討ち取るか。
護がバダの想定を上回り優勢に事を運ぶか。
「う!」
答えは、どちらかといえば後者寄りらしい。
槍がバダの太ももを掠めた。
繊細で正確だった動きが、翳りを帯びる。それを見逃す護ではない。
「そこ!」
足、腰、肩、腕、それからランスへ力を伝達。護は、全身の筋肉をフル稼働させて渾身の一撃を解き放った。
響く金属音。
バダは、グローブで防ぐが体勢を崩す。
――決めきれなかった。やはり強い。ならば、もっと、もっと前へ。
護は大地を踏みしめ、大盾をバダの胴体にぶつけながら、そのまま押し出していく。狙いはバダの後方にある底なし沼だ。あそこに落とせば、バダは身動きが取れなくなるだろう。
「――っぅ!」
しかし、あと数歩といったところで歩みは止まってしまう。
バダは体表に血管を浮かび上がらせながら、鋼鉄の塊である護の突進と拮抗する。
「俺、こんな程度で負けない。俺の兄貴を倒したお前らの会社許さない」
「え?」
「ボナー、俺の兄。兄の屈辱晴らす。お前、あのヒューリとかいう次元決闘者の後輩だろう。ぐちゃぐちゃにしてヒューリにプレゼントしてやる」
「お、お兄さんでしたか。道理で目が殺気立っているわけだ」
バダの瞳は血走り、汗にまみれた護の顔を映している。
「あいにくと、死ぬのはごめんです。はあああああ!」
ぶつけ合う肉体と肉体。
火花を散らす意地と意地。
圧倒的な力と力が、唸りをあげて一進一退の攻防を繰り広げる。
「うおおおおお、シルベやっば!」
観客の沸く声。なんだ、と護が思ったちょうどその時、何かがぶつかって彼は派手に弾き飛ばされた。
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