第13話 中世最高内閣を作れ・その4

 ワタクシは奥洲郁子!

 中世最高内閣を作りますわよ!


 とは言っても、今日はネロの訪問を受けるという話です。

 あのローマ一の暴君と言われるネロですわよ!?

 一体、あんな奴をどこに推薦できると言うのでしょうか?


 えっ、母親のアグリッピナはおまえの好きな悪女ではないのかって?

 ワタクシ、熟女の悪女は嫌いですわ。



 さて、時間になりました。

 応接間に移動しようとしたら、天界の天使たちが真っ青な顔で駆け込んできます。

「大変です! 玄関前でネロが襲撃を受けています!」

「何ですの? 一体誰に……?」


 慌ててかけつけると、何者か……中国の偉そうな人がネロを捕まえて鞭でしばき続けています。

 殴られているネロも泣きまくっていますが、何故か殴っている方も泣いています。

「何がっ! 芸術を活かしたゆとり人生だ!? 厚生や福利だ!? 朕は毎日四時間しか寝ていないのだぞ! 朕はッ! おまえがッ、死ぬまで、殴るのを、やめないッ! おまえを撃ち殺さずにいられようか!」

「やめなさい! やめるのです!」

 天使達が総出で襲撃犯とネロをどうにかひきはがしましたところ、何と襲撃犯は三人もいるではないですか!?

 一体、ネロの何が気に入らないというのでしょう?

 それはまあ、大抵の人はネロを気に入らないのは事実ですが。


 哀れ半殺しにされてしまったネロはICU(集中治療室)に直行しました。

 そして襲撃犯の正体は雍正帝、康熙帝、バシレイオス2世の三人でした。

 中々豪華な面子ですわね。

 康熙帝は血を吐くのをやめてもらいたいのですが。


 尋問が始まります。


「朕達は厚生労働大臣なるものを認めない。人は働いてこそナンボのものだ。朕は四時間しか寝ずにひたすら仕事に励んできた。皆がそうあるべきでネロのような奴は殺すべきだ」

 確かにそうですわね。

 雍正帝のワーカホリックぶりは知られるところです。とにかく仕事には一切妥協しなかった人物として知られております。

 だからと言って、働かない人物を死ぬまで鞭打っていいわけではありませんが。

「朕がコンスタンティノープルに帰るのは、全てのミッションが完了した時のみ。定時だから上がる? 無能を生かしてやっているだけでも感謝すべきなのに、何をぬかしておるのだ? どこまで頭に乗っているというのだ?」

 バシレイオス2世の禁欲ぶりも知られたところではあります。

 自分が禁欲しているのだから、おまえ達も禁欲しろ。その気持ちもまあ分からないではありません。

「……残りの時間を勉強にあてるというのなら、まだ理解できるが、馬鹿共は遊んでいるだけだ。そのような連中が多いから、世が乱れるのだ。ゲホッ!」

 康熙帝も血を吐きながら主張しています。


 それはまあ、一面の真理ではあるかもしれませんが、世の中の全員がこのクラスのワーカホリックだと、逆に良くないのではないでしょうか。


 アリの世界でも、働きアリは必死に働きますが、一定比率働かないアリがいて、バランスを取っているとも言いますし。


 あと、彼らはたいしたものではあるのですが、あまり下々まで干渉するのはいかがなものなのでしょう。独ソ戦のヒトラーやスターリンもやたら細かいところまで指示を出してお互い失敗しておりましたし、今現在のプーチンなんかも大佐レベルの指示まで出していたなんていう話がありましたし。


 とにかく、厚労相は基本的には選抜するということを口を酸っぱくして言い続けて、三人を帰らせました。


「イクコ様、カール・マルクスが"吾輩ことは厚生労働大臣にふさわしい"と自薦してきておりますが」

「……もちろん却下ですわ」


 時代も違いますし、そもそも大臣なんかにしたらあのニートは仕事をしませんわ。

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