第9話 月を見る度思い出せ・後編

 1872年、12月2日。

 史実では、この次の日が新年となり、太陽暦へと移行することになる。


 新居千瑛の調査では、ここに旧暦警察が大勢動員され、政府転覆を図るらしい。

 時は明治・文明開化の時代。

 この年に多くの行政省が設置され、郵便制度も決まったのだが、まだまだ移行中の時代だ。


 そんな新政府の拠点地に集まる旧暦警察の精鋭達。

 いや、精鋭達ばかりではない。この時代から駆り立てた不平士族もいるし。


「革命未だならず。ここから変革するしかない」

「一国革命は間違いだ。世界革命をしなければならない」

「おのれキケロめ、この恨み晴らさずにおけようか」


 全然関係なさそうな革命家も集まっているぞ。

 旧暦警察め、手当たり次第に動員してきたな。


 こうなるとこっちも助っ人がいないとやってられないが、誰もいない。

「援軍を動員しているから、しばらく待ってちょうだい」

 という、新居千瑛の言葉を信じるのみだ。


「太陽暦を採用しようなんて者は、月に代わってお仕置きよ!」

「月を見る度、思い出せ!」

「月は出ているか?」


 くそう!

 月関係のネタを出しまくるんじゃねえ!

 数はともかく、質の差がありすぎるぞ、こちらは新政府の一般兵しかいないというのに。



『待たせたわね、奥洲天成』


 おぉ、援軍だ!

 あれ、援軍?

 誰もいないぞ。


「あっ! 月が欠けていく!」

 えっ?

 おぉっ、本当だ!

 月食が発生している!

 って、この日は太陰暦の2日だからほとんど出てないけど。

 でも、どうして?

 この日、月食が起きたなんて記録はなかったはずだが?


『月と地球の軌道上に大勢の霊を集めたのよ。彼らの邪念で、月は見えないわ』


 自力月食!?

 何という力業なんだ。


「あぁ、旧暦の象徴たる月が見えん……」

 月が見えなくなったことで旧暦警察は急に元気を失っていった。

 旧暦関係なく暴れ回っている革命家組を押さえつけると、後は楽だった。


 俺達は旧暦警察のたくらみを未然に防止した。

 勝ったぞー!



"結末"

 逮捕した旧暦警察達の処理をやっているうちに、日付は1週間ほど経っていた。

「奥洲天成、ご苦労様ン。ハイ、経過したけどバレンタインのチョコよ」

「いらねぇよ! おまえは宦官であって性別関係ないんじゃなかったのか?」

「あら~ん、イケズねぇ」

「……でも、ドタバタやっている間にバレンタインも過ぎて、2月18日かぁ。そういえば、2月18日といえば上杉謙信の誕生日らしいな」

「何を言ってんのよ、天成兄ちゃん。それは今から見たらそうなのであって、当時の暦だと1月21日よ」

 何っ!?


「郁子、おまえ……?」

「……どうしたのよ、天成兄ちゃん?」



『あなたの後ろにいるかもしれない旧暦警察に、ご用心を』

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