第8話 月を見る度思い出せ・中編
旧礫月乃の独房にやってきた。
『旧礫月乃』
新居千瑛の呼びかけに、月乃が面倒そうに振り返る。
月乃は大きな三日月の入ったマントを着ていて、セー★ームーンをイメージさせるセーラー服に髪型をしている。
どこからどう見てもイタイ姿だが、如何せん月乃は旧暦警察の中では崇められている。どんなに痛い姿でもSNSに載せると「すごくかわいいよ」とか「美人過ぎるとは月乃さんのためにある言葉です」などと支持者が崇めるらしい。
だから、突っ込んだら何を言われるか分かったものではない。
ネット世界の闇がここにある。
『カレンダーの差し入れに来たわよ』
と、新居千瑛がカレンダーをポンと差し出した。
月乃がそれを見て、烈火のごとく怒りだす。
「これはイスラム暦のカレンダーでしょうが!」
『太陰暦には違いないでしょ』
「あっちは完全太陰暦です! 旧暦警察は太陰太陽暦なの! 全然違うんですから!」
これも意外と分からないと思うから説明が必要だろう。
というか、今回の話のキモはこれだけだからな。
太陰暦というのは月の周期でカレンダーを作るわけだ。
で、忠実に従うと月の周期だと大体354日で一年となる。
これを放置しておくと、3年で一か月ずれる。
例えば日本では季節感がズレることになる。これは中国でも同様で、ちょっとよろしくない。
だから、閏月を入れて調節した。
現在の暦でも4年に1回、2月29日が存在するが、3年間に一回、13月が存在するような扱いだ。
これが太陰太陽暦だ。
イスラム世界ではわざわざ合わせることはしない。イスラムが発展した地域は砂漠が多いから、季節感というものがなかったことがあるのかもしれない。
こっちは完全な太陰暦であり、相当なズレが生じている。
『旧礫月乃、貴女に関する怪しい憶測が広まっているわ。素直に自白した方が賢いと思うわよ』
「私の憶測? 何の憶測なのでしょう? 憶測なんてものはありません。旧暦こそが全て。陽暦なる邪暦を信奉する者に対して月に代わってお仕置きをするのが、私達の役目なのです」
新居千瑛の尋問にもびくともしない。
あれだ。根本として狂っているから、修正などできないって状態だ。
『なら、もう少し具体的に指摘すべきかしらね。21世紀世界で旧暦と新暦の全面対決を主張し、最終戦争に持ち込むという目論見を立てて某国から核を持ち込もうとしているようだけど?』
おいおいマジかよ。
どこのカルトだよ、それ。
「ウフフフフ、見抜かれていたのですね」
月乃が不気味に笑う。
それを見た新居千瑛も不敵に笑った。
『とはいえ、それはあくまで陽動。本命は1872年の日本に襲撃をかけて太陽暦へ転換する前に政府をぶっ壊す方でしょ?』
「……」
お、露骨に慌てだした。
やはり幽霊兼AIはダテではない。計画を完全に把握していたのか。
というか、陽動で核兵器を使うな。どれだけヤバイんだ、おまえ達は。
「西郷隆盛も、志々雄真実も遅かったのです。明治10年などに立ち上がっても、日本は良くなりません」
いや、西郷はともかく志々雄はフィクションだから。
次の後編で本当に終わるんだろうな?
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