第6話 超えよ、その頂を 後編

 遂に、その時が来た。

 俺はK2踏破に向けて出発したのだ!

アッラーフ・アクバル神は偉大なり!」

インシャーアッラー神が望み給うなら!」

 いや、これはまずいな。

 死ぬことまで思し召しになりそうだ。


 K2クラスの山に登るとなれば、本来はパーティーを組んで労力を分散する必要がある。しかし、11世紀にあんな果てにある山に登ろうなんていう奴はいない。

 もう50年くらい昔であれば、この辺りを治めるガズナ朝が最盛期だったから、カラコルム山脈を抜けて中国方面に、という編成ができたかもしれないが、ガズナ朝は落ち目だ。

 頼れるのは自分の力と未来知識だけだ。

 一体、何の未来知識があるのかって?


 フフフ、俺には切り札がある。

 これだ!

 コカ茶!


 南パキスタンとインドネシアには交易がある。

 インドネシアのコカの葉を煎じて煮詰めたものを大量に用意したのだ。


 何、「おまえは困ったら麻薬に頼っていないか?」だと。

 馬鹿を言うな! この時代も麻薬なんて概念はないんだ!

 西のイランの暗殺教団が大麻を吸っているのだ。高山病緩和のためにコカ茶を飲むくらい許されるはずだ。


 イエティ・テンセイと呼ばれた身体能力とコカ茶、そして各種毛皮の防寒具をまとった俺は無敵だ!

 あっという間にK2の7000メートル地点まで到達できた。


 とはいえ、ここからは極限の状況だ。

 K2は傾斜も険しい。一度足を滑らせれば数百メートルは滑落して助からないと言われている。俺はコカ茶を飲んで覚醒作用を強く得て、細心の注意を払って山を登っていく。

「疲れたなぁ」

「もう少しだ。頑張れよ」

 極限状況で、脳が混乱してサードマンも姿を現してきた。

 決してコカ茶の幻覚ではないぞ。


 そして遂に。

「頂上だー!」

 俺はK2の頂上に立つことができた。


「やった! では、ここにステッキを残して……うん?」

 今、何かが落ちたような?

 って、コカ茶の瓶が!

「待ってくれ、コカ茶がないと生き残れん!」

 ズルッ!

「ウワーッ!」


 あっと言うまに2、300メートル落下してしまった。

 体中が痛い……感覚が鈍ってくる。

 ステッキも落としてしまったし、コカ茶もなくなった。

 もう、帰れそうにない……。



”結末”

『……どうせなら頂上で死んでいれば、踏破したモニュメントとしても残れて良かったのにね』

「その言い方はあんまり過ぎないか!?」

『ただ、8300メートル地点で凍結したことで中途半端にものを置くよりも間違いない証として残せたわね。「K2の頂上近くに眠る11世紀の男」として世界七不思議の筆頭にあげられるようになったわよ。さすがにK2の頂上近くから引き下ろすことはできないから、雪男説、宇宙人説と様々な説が取りざたされているわ』

「何だか複雑だ……」

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