第4話 超えよ、その頂を 前編

 俺の名前は奥洲天成!


 俺は最強の格闘家だ。K-1チャンピオンとして長年君臨し、他団体とも激しいバトルを繰り広げてきた。

 しかし、そんな俺を襲った不慮の悲運。


「テンセイ様の心臓はワタクシのもの……」


 どわぁぁぁ!

 違う! 違う!

 この前、人質交換でダメ夫の心臓を渡しただろう?


「あら、そうでしたか? ま、グスタフ様の心臓の代わりですから、何でもいいですわ」


 ゼェ、ゼェ。

 俺は脳腫瘍という不運に見舞われ、この世を去った。


『前世の説明が長いのは随分久しぶりね』

「あれ、新居千瑛? 『』になったということは、正式に女神に昇格したのか?」

『昇格はしていないけど、女神の放逐先が決まったから、正管理人にはなったわ』


 放逐先が決まったのか。


『それはそうと、今回、奥洲天成にやってもらいたいのは、11世紀の修道僧よ』

「修道僧か」

「K-1チャンピオンだった貴方には、K2をいち早く制覇してもらうわ」


 K2!?


「K2ってカラコルム山脈の?」

『そうよ』

「高さは二番目だけど、エベレストより遥かに登るのが難しいという?」

『でも、K-1は制したでしょ?』

「求められるものが全然違うだろ?」

『何だったらK1から登ってもいいわよ』


 K2ってのは、元々インドの測量隊が見つけた山に記号としてつけていったわけで、実はK1から35くらいまであるらしい。


 ただ、K1だってマッシャーブルムだろ。7800メートル超えだから簡単ではない。

 しかし、K2はそれ以上にヤバい。

 そもそも、固有名称がないくらい人里離れたところにあるうえ、難易度もバカ高い。死者の多さは8000メートル峰の中でもかなり高い。

 で、11世紀というか、そもそも20世紀より前という時点で酸素ボンベがない。


 K2の無酸素登頂なんて死ねっていうようなものだぞ?


『何を言うの? 11世紀の意地を見せてみなさい。そのうえで、後世まで伝わるようなものを頂上に残していくのよ』

「後世まで伝わるものを頂上に残す?」


 って、K2制するのって1954年の話だろ?


 そこまで残るものなんてあるのか?


 結構無茶苦茶すぎる難題だと思うのだが……


『なら、もうしばらくダメ夫の代わりを務めてみる?』

「やる! やらせてくれ!」


 もう、心臓も魂をヤンデレ王妃に管理される日は嫌だー!

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