第3話 目指せ南の果てを・後編
いよいよジェームズ・クックの南極を目指す旅が始まりましたわ!
「諸君、私達はこれより、イギリスのために世界を探索する!」
「「おぉー!」」
「私達は何故、探索をするのか? そこのおまえ、答えろ!」
「ハッ! 白瀬矗答えます! そこに海があるからです!」
「馬鹿者ー!」
おぉ、見事な左フックが入りましたわ。
「イギリスは世界に冠たる海洋国家でなければならない! 世界の海域の全てを押さえ、あらゆる海戦で有利に戦えるようにしなければならないのだ! 分かったか!?」
「「サー、イェッサー!」」
「そして、究極の目標は南の果てにある大陸に英軍基地を作るのだ! どうしてだか分かるか!?」
「マガリャネス答えます! カッコいいからです!」
「このボケナスがー!」
右ストレートも素晴らしいですわ。今日は絶好調ですわね。
「誰も足を踏み入れたことのない南極に基地を作れば、他国は英国海軍の威容を恐れ、逆らおうなどという気を起さない! そのためだ!」
うまく理由をこじつけましたわ。
「すなわち、我々は南極にたどりつかなければならない! それこそがイギリスのためだ。手段を選んではいられないのだ! 我々は恥を忍んででも、南極にたどりつく! 分かったか、おまえ達!?」
「「サー、イェッサー!」」
かくして、クック一行は南極へと向かいました。
もっとも、南極に全部隊あげて向かうわけではありません。他の調査もやらなければならないので、一部隊を率いて向かうことにしたのですわ。
「どのようなルートで目指すのです?」
「もちろん、世界初の達成ルート。アムンセンルートだ」
つまりニュージーランドの東岸からクジラ湾に到着。
ロス氷床を突破して南極点を目指すというやり方ですわね。
「まずは南極点の到達を目標とする!」
クックがこう主張したのには、スコット隊の失敗があるからですわ。
スコット隊が失敗した理由は色々あるのですが、まっしぐらに南極点を目指すのではなく、色々な学術調査をしながら向かっていたということがありました。そのせいで距離も長く、また日数もかかってしまい、帰る余力がなかったのですわ。
そもそもたどりつけるかすら分からない18世紀の技術で、更にそんな余計なことをするわけにはいきません。これは至極もっともな話ですわ。
そして、白瀬とマガリャネスはこの世界に転生して以降、アザラシ漁に明け暮れる人生を送っていたとのこと。アザラシの毛皮やら犬ソリも用意しておりました。
この、日英葡にノルウェーのスタイルを合体させた連合軍で挑むことになりましたわ。
南極海の荒波を乗り越え、どうにか、こうにか大陸にたどりつきましたが、まずは基地の設営からスタートです。
簡易な基地を築くと、次に春を待つことになりますわ。当たり前ですが、寒い南極で冬に移動するなど自殺行為です。
9月になり、いよいよ出発ですわ!
15人の隊が犬ソリを使って進んでいきます。犬ソリは困った時には犬を殺して食事にするという方法もありますが、このルートはアザラシも多くいるので食糧には困らないはずですわ。
かくして、ついに。
「南極点だぁ!」
遂に到達しましたわ!
白瀬もマガリャネスも喜んでおりますわ!
白瀬はたどりつくことができなかっただけに、喜びもひとしおでしょう。
しかし。
「……隊長。今、思ったんですけど、どうやって証明するんですか?」
「むっ?」
言われてみれば……。
20世紀の時にはアムンセンとスコットが競い合い、ノルウェー国旗とイギリス国旗をそれぞれ立てたり、アムンセンの「到着したよ」という二番手宛ての手紙をスコットが持っていたなどで証明されましたわ。
しかし、今、この時代だと旗を立てても次の到達者が来るまで持ちそうにありません。仮にクック達が到着を主張しても、現実問題として信用されるものでもなさそうですわ。
「……し、仕方ない。南極に到着した証拠として、標本など、南極にしかないもののサンプルを回収して」
「そんな余裕はないですよ。そもそも18世紀の技術でそんなに標本を集められませんって」
「……」
どうやら、彼らは画竜点睛を欠いたようですわ。
「行けることが証明したのですから、それでよろしいのでは?」
「しかし、我々自体が後世の知識を生かした反則みたいなものだ。だから、18世紀で行けたことにはならないし、ちやほやされることもないではないか!」
「うぉぉぉ、史実では不遇だったから、私もちやほやされたかったですぅ!」
勝手にやっていろ、ですわ。
"千瑛ちゃんの一言"
「より前の時代に、奇跡的にたどりついた者がいる可能性もゼロとは言えないしね」
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