第四部・冒険家は死んでも治らない

第1話 目指せ南の果てを・前編

 ワタクシの名前は奥洲郁子!

 現在、従兄の天成が色々と悲惨な目に遭っている最中ですので、女神代行の新居千瑛の秘書を務めておりますわ!


 今回、ワタクシは霊魂たちの要望を聞きに来ましたわ。

「……女神代行秘書、頼みがあります」

 と、やってきたのはジェームズ・クックですわ。

 太平洋や南半球の調査に甚大な努力を払った人ですわね。最後は現地民と争って殺されてしまったということですが。


「何ですの?」

「私は……18世紀の限界に挑みたい」

「18世紀の限界?」

「私は、南極に挑みたい!」

「……」


 こいつ、何を言っていますの?


「南極なんて20世紀になっても、オタクのスコット隊が全滅したではありませんか。18世紀に南極に行くなど無理なことですわ」

「いや、しかし、可能性はゼロではない!」


 クックは滔々と持論を並べ始めました。

 南極点に到着したロアール・アムンセンのとった方法はイヌソリの利用やアザラシの皮を利用するといった必ずしも最先端なものではなかったことで18世紀でも不可能ではないということ。

 最大の問題はどうやって18世紀の船で南極大陸まで到達するかだが、南極大陸を理解したうえで行く分には不可能ではないと思えること。


「私は、更なる果てに挑戦したいのだ! 海が! 氷が! 私を求めてやまない!」

「かき氷でも食べて我慢していなさい」

「……ならば、私は署名を集めて女神代行に直接嘆願しよう!」

「えぇ~」


 中途半端に人望のある奴は面倒ですわ。



 仕方ありません。

 ワタクシは、女神代行の新居千瑛に相談することにしました。

「早い話が、ジェームズ・クックが自身に転生して南極を目指したいということね。別に良いのではないかしら?」

「そうですか」

 意外とすんなり許可が下りました。

 まあ、考えてみれば自分への逆行転生。仮に南極に向かう途中で全滅したとしても、大きく迷惑をこうむる者もいないということですわね。

「海という点では鄭和も連れて行かせてもら良かったかもしれませんわね」

「確かに。だけど、彼はあの2人(フアナとマリア・エレオノーラ)を宥める必要があるのよ。だから、貴女が行ってもらえるかしら?」

「へ、ワタクシ?」

 ワタクシは南極にも海にも興味などありませんことよ。

「誰も見に行かないのも良くないでしょ? もし18世紀で成功したら、次は17世紀でチャレンジする連中も出るかもしれないから、情報が必要なのよ」

「むむむむ……こういうので犠牲になるのは天成と相場が決まっておりますのに」

「だったら、代わりにあの2人のところに行ってきてちょうだいな」

「それは絶対に嫌ですわ!」


 フアナとマリア・エレオノーラのところに束縛される。

 恐ろしいですわ。

 しかも、次が来るまでって、あんな死地にポンポン飛び込む馬鹿はおりませんわ。下手すると二百年三百年を軽く過ごすことになってしまいます。

 そんな目に遭うことと比べたら、荒れ狂う南極海は腹を見せて転がっているアザラシのような可愛いものに見えますわ。


『グォャー!』

「痛いぃ! 痛いですのぉ!」

「何をしているの? ヒョウアザラシに触れたら噛みつかれるに決まっているわ」

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