第43話 あるホストの悲劇・中編

注意:この話にも残虐的かつ猟奇的な表現が出てきます。



 大変な任務を引き受けてしまったが、まずは17世紀のスウェーデンに飛ぶことにした。

 ストックホルムの王宮の一角、王妃の部屋に入る。


 えっ、王妃の部屋にそんなに簡単に入れるのかって?

 入れるんだよ。

 廷臣達もビビッて、部屋自体に近づかないから、見張りもいないんだ。


「うおっ……?」

 部屋は真っ暗だ。

 奥の方に蝋燭の微かな明かりが見える。

 そして、異様な臭いがする。死臭というべきだろうか。何かが腐るような生臭く、しかし、どこかほんのりと甘い臭いが……


「誰なの……?」

 消え入るような女の声が聞こえてきた。

「俺は天界から来たテンセイといいます。王妃様、ダメ夫の心臓を返してもらえないですか?」

「……何ですって?」

 うおぉ、低い威圧的な声。

 恐ろしい……。

「……私とダメ夫の愛を邪魔しようというのですか? 邪魔するなら、殺しますわよ?」

「いや、愛も何もダメ夫はもう死んでいるし。ウッ!?」



 あれ? 天界に戻ってきた。

「奥洲天成、死んでしまったのね……。情けないとは言わないけど、もう少し警戒すべきだったわね」

「な、何だと?」

 ちょっと待てよ、あの女、どうやって俺を殺したんだよ?

「……もう一回チャレンジしてきなさい」

「ひぇぇぇ……」



 俺は再びマリア・エレオノーラの部屋に来た。

「あら、おまえ、殺したはずですのに……?」

 さすがのマリアもちょっと驚いている。

「……いいですわ。貴方が私の寂しさを埋めてくれるというのなら、考えてあげましても……」


 そう言って、マリアは紙を投げ渡してきた。

 そこにはマリアを愛する者のなすべきことが書かれてある。



6時:マリアが起きる。目覚めのキスは御約束。庭で美味しい朝食

午前:一緒に過ごして一緒に仕事もする

11時:昼食。2人で料理を作ってお互い食べさせあいっこする。

午後:一緒に過ごして、乗馬やら趣味の運動などをする。

17時:夕食。2人で料理を作って以下同文

夕方から夜:夕方は色々趣味活動。夜は男女の営みも含めた趣味活動。

深夜:マリアが寝た後、気持ちよく睡眠ができるよう起きるまでマッサージ


「……」

 おい、ちょっと待てよ。

 マリアは寝るが、俺はマッサージって、俺はいつ寝ればいいんだよ。

 これは愛というより、奉仕を求めているだけなんじゃないか?


「私はヨーロッパ一の美女と呼ばれているのですよ。そのくらいしてくれて当然じゃないですか?」

 ナチュラルに尊大だ。


 とはいえ、引き受けないと心臓が返ってきそうにない。

 引き受けて、隙を見て逃げるしかないか……。

 バレたら、殺されてしまうが……ぐえっ!?


「それでは、保険としてテンセイ様の心臓を預かっておきますわ」


 ……そもそも信頼されてすらいなかった。

 ……というか、殺されたら奉仕も何もないのでは?

 まさか、ゾンビにでもさせられて、奉仕させられるのだろうか……

 そんなネクロマンサーみたいな奴が現実にいて、いいのか?




"天界の様子"

「尾奈鋤ダメ夫の心臓が返ってきたわヨン」

「ご苦労様」

「だけど、天成はどうしたら良いのカシラ~?」

「心臓を封印されてしまった以上、どうしようもないわ。次の犠牲者が心臓を捧げるまではどうしようもないわね。フアナの件は貴方に任せて良いかしら、鄭和?」

「怖いわ~ン♪」

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