第42話 あるホストの悲劇・前編

注意:今回の話には暴力的・刺激的な表現が使われています。



 俺の名前は奥洲天成。


 任務から戻ったら、女神がクーデターで追放され、新居千瑛が女神代行に戻っていた。


「奥洲天成、戻ってきたのね」

「あぁ、しかし、あんたが動かすと天界は見違えるように良くなるな」

「そうかしら? 普通に処理しているだけだけどね」


 いかに女神がダメかということか。


「ところで奥洲天成、尾奈鋤ダメ夫という男を知っているかしら?」

「俺の同級生のホストのことか?」


 確か、家はかなり金持ちなのに本人は反発していて、「日本一のホストになる」とか訳の分からないことを言っていた。

 かなりあくどいことをしているという話も聞いていたが……


「知っているのなら話が早いわ。彼は天界でもホストをしていたのだけど、何というか、かなりヤバい女性の贔屓になってしまったのよね」

「ほう?」


 新居千瑛が「やばい女」と言うからには、相当なものかもしれない。


「それで一時期は天界ナンバーワンホストになっていたらしいけれど、浮気がバレてしまって殺されたらしいのよ。天界にいる以上、既に死んでいるはずなのに、更に殺されるという非現実的な話が起きたわけよ」

「それだけでも尋常ではない事態だということが分かるな……」

「それで、実家の方から、『せめて葬式だけでもあげたい』という悲痛な要請が来ているわ」

「うん? 葬式だけでもあげたいなんて要請が来るなんていうことは、死体とか魂とか残っていないのか?」

「えぇ、犯人は三人の女性なんだけど、まず心臓をマリア・エレオノーラ・フォン・ブランデンブルクが持っていってしまったの」

「ブブッ!」


 マリア・エレオノーラというと、グスタフ・アドルフの妻か。

 王が死んだ後、心臓をハンカチに包んでいて、今でも博物館にそのハンカチが飾られているという話だな。


「更に局部部分を阿部定が持っていってしまったの」

「ブフォッ!」


 愛人関係にあった男を殺して(同意があったものとされる)、局部を持っていった奴か……


「ちなみに残りは……?」

「残りはスペイン女王のフアナが棺桶に入れて、今もカタルーニャ内を移動しているわ」


 や、やはり……

 RPGで仲間が死んだときに棺桶と共に動くことになる原因を作った女、フアナも登場してしまったのか(嘘です)


 尾奈鋤、おまえ、どれだけヤバい女と付き合っていたんだ……。


「話をしたら、阿部定だけは素直に返してくれたけど、残りの2人は断固拒否しているわ。天界からの使節が半殺しにされて帰ってきたの」

「もしかして、俺にその交渉をしてこいと……?」

「他に派遣すべき人が見当たらないのよ」


 勘弁してくれよ……


「私も、さすがにこの件は放置もありかしらと思ったけど、中途半端に一か所だけ返ってきたから、これで葬儀をさせるのはあまりだと思うからね」


 確かにそうだな。

 局部だけなら、むしろ何もない方がマシだよな。


 しかし、フアナとマリア・エレオノーラを説得するなんてどう考えても無理ゲーだぞ。


「郁子は悪女に憧れているのだし、あいつに行かせたらいいんじゃないのか?」

「私もそれを考えて提案したんだけど、『あれはワタクシの望む悪女ではありませんわ!』とひたすら号泣して拒否されたのよ。3人目の激ヤバ案件になりそうだったから、やめることにしたわ」

「……似た者同士だったということか」


 となると、俺が行くしかないのか。

 これは普通に二回くらい殺されるかもしれんな……

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