第37話 奴隷船がやってくる・後編
奴隷船は中米で大量の奴隷を販売した。
この地域では砂糖が生産されている。
砂糖は食べる分には甘いが、作る分にはとてつもなく苦しい。
特にサトウキビを砂糖に精製していく過程だ。サトウキビを煮詰めて、ひたすらすりつぶしていくという。煮詰めるわけだから内部はメチャクチャ暑い。そこで一日中働くわけだ。
だから言い方は悪いが、どんどん補充が必要なわけで奴隷の需要がなくなることはないということだ。
「おまえの仕事は気に入ったぜ。これは褒美だ」
単調な簿記業務だが、俺は船長に気に入られたようでたんまりと褒美をもらった。
そんなこんなで、俺はジャマイカでまあまあのバカンスを満喫していた。
ただ、問題がある。ここはカリブ海で、ここからペルーやボリビアに行くのは結構大変だ。
「おまえがテンセイか?」
スパニッシュタウンを歩いていると、声をかけられた。
片眼に眼帯をしていて、片手はフックという、見るからにヤバイ奴だ。
「奴隷船長のスレイバーから聞いたぜ。俺はこの近辺を根城にしている海賊のバッカニーだ。おまえ、中々やるらしいじゃねえか」
「簿記だけですが?」
「簿記だけ? だが、それがいい。俺達は近くのスペイン船を襲って金銀を奪っている。その計算なり船員達を奴隷にするに際しての収支計算をする奴を求めていた。俺とともに行こうじゃないか。仏と会えば仏を斬り、鬼と会えば鬼を斬るのだ」
慶次ファンが怒るぞ……
俺はなし崩し的に海賊船団に入れられてしまった。
私掠船というと、エリザベス女王の下で活躍していたフランシス・ドレークが名高いが、時代を下ってもまだやっていた。
というか、スペインが新大陸から金銀をたっぷり積んだ船を出しているのだ。誰だって狙いたくなるだろう。
もう少し時代が下ると、国家海軍が創設されて、海賊達は不要となって没落していくのだが、この時代は全盛期だ。
カリブ海や南米近くの海でスペイン船を襲ってはたんまりと利益をあげていた。
「こんなはずでは……」
二年後、俺はまだ奴隷船の上にいた。
財産は大分溜まった。しかし、連中が貴重な知識をもつという俺を解放してくれない。
非常にまずい状況だ。
俺は南米で活動できるだけの資金を既に確保している。しかし、南米はスペイン領だ。俺が今後も活躍しつづければ南米中で指名手配されて、活動ができなくなってしまう。
「スレイバー船長、そろそろ別支部でも立てていいか?」
俺は独立をもちかけた。
認められれば、そのまま南米にトンズラしてしまうつもりだったが。
「あと三年ほど俺とバッカニーの下にいろ。おまえはいずれは海賊王になれる男だ」
なりたくねえよ。
というか、俺は喧嘩の能力はさほど高くないし。
「喧嘩の能力ではない。船員を納得させられる能力だ。簿記と売上を完璧に把握しているおまえを敵に回して、生きていける船員はいない」
更に二年が立った。
今や俺は第二船の船長として、船団の売上を管理していた。そっちの賃金に、第二船の売り上げから船長分の報酬が入ってくる。
今や、旅費がないなんてことはない。
望めば世界一周できるだけの金が溜まった。
まあ、望むのは俺じゃなくて船員一同なのだが……
もはや俺の運命は俺一人では決められない。
奴隷船団とともにあるのだ。
"みんなの一言"
「海賊船に遭ったら怖いという話がありますが、知識人が知識ゆえに意外と尊重されたという話もあるようですわね」
「下手な仕事より儲かるのよネン♪」
「ダーウィンが尊敬していたウィリアム・ダンピアも海賊としての活動をする傍らフィールドワークに励んでいたわけだもの」
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