第36話 奴隷船がやってくる・中編
かくして、俺はYOG-40号の船員として採用されることになった。
早速乗り込んで船長に挨拶をする。
「テンセイって言います。よろしくお願いします!」
「おお、君がテンセイか。帳簿の計算の方は頼むよ。私の取り扱う品はかなり特殊な償却計算をするからよろしく頼むよ」
「任せてください!」
と、早速出発の準備をしているが、俺は妙なことに気づいた。
「商品などは載せないのですか?」
船には何も積んでいない。
通常、遠いところまで行くからには、物を購入する金なり、代わりに販売する積み荷を積み込むはずだが、そうしたものが何もない。
「ハッハッハ、商品はセネガルで積むのだよ」
「セネガルで?」
「そうだとも。沢山積んで、それをカリブの島々に売るんだ」
「カリブで?」
カリブで売れるものって何かあるのか?
そもそも、あのあたりにそんな需要のある商品ってあったっけ?
「ハッハッハ。何を寝ぼけたことを言っているんだ。農場主に奴隷を売るに決まっているじゃないか」
奴隷!?
俺が乗る船は奴隷船だったのか?
だから安かったのか!?
犯罪だから!
「犯罪? 何を言っているんだ、ごくごく普通のことじゃないか」
あぁ、そういえばそうだったな。奴隷がダメってなるのは19世紀くらいになってからだ。それまでは特別変なことでもなかった。
要は奴隷の管理が大変だから、手伝ってくれるヤツの船賃は免除してやるということか。
「……そうだ。もちろん、希望するなら、おまえの分の取り分も用意してやってもいいぞ。今後の働きによっては大金持ちになれるぞ」
くっ。
俺は金持ちにはなりたいが、さすがに奴隷主として成功するのは良心が許さない。硝石の販売とか、そういうまともな方面で成功したい。
だが、現実問題として中世のパンピーという貧乏人になってしまった以上、奴隷船に乗り込まないと南米に行くことはできない。
仕方ない、今回だけ乗り込むしかない。
俺達の船はセネガルについた。
着いたら早速、200人くらいの奴隷候補が列を連ねて待っている。
提携関係が成立しているようで、やりとりにお金がかかることはない。
奴隷を乗せて、船は西へと向かう。まずはラス・パルマスに向かった。
ここで補給をして、そのまま大西洋横断だ。
「大体、半分くらいが途中でいなくなるから、計上も半分で良いぞ」
「はぁ……」
いなくなると言っても、大西洋上だから逃げるわけではないだろう。
憂鬱だ。
「船倉などに行く必要はないぞ。あまり気分の良いものではないからな。そこでしっかり計算していれば良い」
「分かりました」
「……うむ。よく計算できているな。おまえは頼りになりそうだ」
「そいつはどうも……」
「うまく行けば、帰りにラス・パルマスで女奴隷の一人でも買えば良いぞ」
なるほど、船に乗せる奴隷は男ばかりだが、用途が違うからということか。
女の方はラス・パルマスに残して、財をなしたものが買ったりするということなのだろう。
「明らかに弱っちい奴隷はどうするんですか?」
「それはおまえ、そんな奴らを連れていっても仕方ないから、魚のエサにするしかないだろう。知っているか? 世界は循環しているのだ。魚が弱いものを食べて成長し、その魚を俺達が食べるというわけだ。ギブアンドテイクということだ。ただ」
「ただ?」
「弱い理由によっては、別の地域に売る手もあるな。東のトルコの連中は、変わった奴隷も好むからな」
イスラームの変わった奉仕精神などから、不具者などの需要があったらしい。目や耳に障害がある者も、重宝されるようだ。
そうでないごくごく普通の連中の辿った運命は、言うまでもない……
"みんなの一言"
「トルコについては、ハーレム解放後に仕事がなくなった宦官、要は元奴隷達が自分達を見世物にして生計を立てていたという悲しい話があるわね」
「宦官を痛めつけるなんて……、ムスタファ・ケマルは死ぬべきヨン」
「ケマル自身も仕方ないから宦官を一人養っていたらしいけど」
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