第30話 科挙とラノベの怪しい関係・後編

 今、明の末期、科挙がラノベに乗っ取られようとしている現場に、私と奥洲郁子は立ち会っているわ。

「こ、ここまで広がってしまったら、いくら貴女でも打つ手はないのではないですか?」

「……そんなことはないわ」

「何か手があるんですの?」

「そうよ。多少、手荒な方法にはなるけどね……」

「手荒な方法?」


 三日後。


「た、助けてくれ……」

「陛下! どうかお慈悲を!」


「あ、あれ? 数日前まで塾でブイブイ言わせていた連中が次々と引っ立てられていきますわ」

「そうよ。彼らは全員、市場で死刑と決まったわ。反逆罪は死刑、これもまたある種のテンプレよね」

「は、反逆罪……?」

「この時代のトップは誰?」

「それは皇帝……ではありませんわね。魏忠賢ぎ ちゅうけんでしょうか?」

「そうよ」


 この時代のトップは宦官の魏忠賢よ。彼は貧農出身で科挙及第者をはじめとするエリート層を憎悪していたわ。


 中国に宦官は数あれど、全盛期の魏忠賢ほど好き放題をした宦官はいないわ。

 無学ゆえに彼は限度というものを知らず、「自らは孔子より偉大だ」とか言い出したり、「自分は皇帝ではないから万歳はやり過ぎだが、九千歳くらいは受ける資格がある」と言って「九千歳」と称えさせたりしたのよ。


「エリートが嫌いなら、むしろラノベは合いそうなのでは?」

「彼は読み書きができないわ。ハードだろうとライトだろうと読めないのよ。全てエリート層のものとして憎悪しているわ」

「あちゃあ……」

「おまけに宦官はラノベとはもっとも縁遠いものよ。誰かが『ラノベ構文が流行っているのは宦官を排斥する計画の一端に違いありません』なんて言った途端、こうなるわけ」

「そ、その誰かって?」

「……何を怯えた顔をしているの?」

「な、何でもありませんわ」


 こうして何人かが市場で死刑になったわ。

 魏忠賢のすさまじい怒りを目の当たりにして、妙な運動は収まったの。


「これでミッション・コンプリートね」

「いや、この展開なら、ワタクシ必要だったのですか?」

「ボケ役がいないと、私がツッコミできないでしょ?」

「……。しかし、魏忠賢がもし文字を読めたら、科挙そのものが『どれだけ魏忠賢を称えるか』という試験になったのかもしれませんわね」

「その可能性は決して低くないわね。前話でも言った通り、科挙が八百年に渡って、同じ形を保っていたのは奇跡なのよ。ま、八百年も同じ形だったから、最後は役に立たない官僚ばかり生み出したとも言えるけど」

「流行り廃りは大切なのですわね」

「流行り廃りというか、実学的な部分ということかしらね。とりあえずこいつらは……」

「あ、転生航空機を落とした三人組もひっとらえたのですわね」

「……そんなに落ちるのが好きなら、それぞれロープ無しバンジージャンプ三千年の刑ね」

「やはり、貴女が女神代行をしていた方が良いのでは……?」



"鄭和の一言"

「アタシがいることで、もし、宦官が世界の支配者になったとしてもこの話は守られるわヨン」

「そんなわけあるかい」


"その頃の女神"

「いいなぁ、背番号譲っただけでポルシェがもらえるなんて」

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