第27話 世界史最悪の年に勝利せよ・結末編

 かくして俺達はイギリスを出港し、そのまま南西に向かった。

 大西洋の航海となると、食糧不足や壊血病という心配があるが、その点についてはラム酒などを用意してバッチリだ。


 宝船ともなると貯蔵施設もとてつもない広さだしな。

 そして、アーサー王の配下である一騎当千……は言い過ぎにしても、強い騎士がついてきている。

 そう、アーサー王の遺志を継いで世界を救う戦士達だ。


 航海二〇日。

 ついに俺達はカリブ海に到達した。

 現地住民からトウモロコシをもらったが、世界を救うにはとても足りない。

 やはりメキシコ、そして南米に行く必要がある。


 カリブ海までつけば、メキシコまでも遠くない。

 かくしてメキシコ東部に到達したら、現地民は大騒ぎだ。

「貴方様方ならテオティワカンを倒してくれるはずです」


 メキシコも多くの地域に分かれて争っていた。

 少し離れたマヤ文明もそうだが、とにかく内戦が激しい。

「……これだけ分裂していると、穏便にトウモロコシだけもらう訳にもいかないワン」

 鄭和が言う通り、強い政権がなければ供給もままならない。

 時間もないのであまり争いに時間を取りたくはないのだが……

「ここにはアーサー王の騎士達がいるから、簡単には負けないわヨン。あと、秘密兵器として火薬も持ってきたワン」

「……ちょっと待て、この時代に火薬は反則だし、そもそもあんたの国だって火薬は……」

 あるのか。

 火薬自体は宋代にはあったらしいからな。花火として使っていて、武器として使わなかっただけで。


 鉄砲を作るのはさすがに無理だが、花火なら何とか作れる。

 これを爆発させるだけでも、心理的な効果はあるだろう。


 ということで、アーサー王の騎士を従えて前進だ。

 まずはテオティワカンを倒すぞ!


 始まってみると、予想以上に圧倒的だった。

 武器と防具の質が全然違うし、向こうは花火でビビッているし。

 瞬く間にテオティワカンをはじめとしたメキシコ地域を征服した。

 よし、あとは南米から芋を仕入れて、世界中に……


「テンセイ様、テイワ様万歳!」

「あの偉そうなマヤの連中をたたきのめしてしまえ!」

 おい、こら……

 調子に乗った連中が南東にあるマヤ地域を激しく挑発して、開戦してしまった。


 あれ、これって際限なく戦闘が続いていくパターンじゃないか?



 そして5年の月日が過ぎた。

「お前達、我がカリブ帝国は今やアメリカからペルーに至る世界最強の帝国となった!」

「海を隔てた大陸の向こうは、飢えと飢饉に苦しんでいるワ! 連中をぶっ倒し、カリブの秩序を世界の秩序とするのヨ!」


 マヤ文明から先、原始南米文明やアメリカの先史時代を駆逐した俺達は、今や最強国となっていた。トウモロコシと幾多の芋類で天変地異も余裕で乗り越えた。

 また、鄭和がどこでそんな閃きを得たものか、神官は神に一物を捧げなければならないとか言い出して、宦官を神官層としてしまった。

 つまり、貴族階級のトップが俺で、僧侶階級のトップが鄭和だ。


「ヨーロッパ人、インド人、アジア人を支配すれば、おまえ達も特権を享受できるぞ! 歯ぁくいしばれ!」

"オォォーッ!"


 536年は、天変地異などで食糧不足に疫病が流行ったという。

 と、同時に世界帝国が支配宣言をした年でもあった。


 まさに世界史最悪の年だ。

 俺達にとっては最高の年だが、な。



"女神の一言"

『何やってんのよ! あんた達!』

「楽しかった」

「宦官を公的に最強制度にできて良かったワン」

『こんなことをやったら、せっかく復帰したのにまた管理不行き届きで女神降格になってしまうわー!』

「いくら何でも世界を滅ぼしたことがある人には言われたくないぞ」

「目的のためなら手段を全く選ばないしネ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る