第26話 世界史最悪の年に勝利せよ・後編
イギリスについた俺達は、そのままアーサー王に招かれることになった。
「客人よ。よくぞ、このアーサーの下に参った」
「ははーっ」
アーサー王と行動を共にするというのも非常に興味深いのだが、生憎5年後に世界史最悪の年が来るとなればのんびりしてはいられない。
「陛下、世界には危機が迫っておりまして」
理解してもらえるかな~と思いつつ、アーサーに説明しようとした。
すると、アーサーはうんうんと頷いた。
「みなまで言うな。私はよく分かっておる」
「さ、さすがは陛下でございます」
「この世界に危機が迫っている。救うためには"聖杯"が必要だ。円卓の騎士達よ、探してくるのだ」
……全然、分かっていなかった。
いや、まあ、アーサー王といえば聖杯伝説は仕方ないんだが。
これはまずい。
このままでは貴重な五年間がアーサー達との付き合いだけで費やすことになってしまう。
とはいえ、抜け出そうにも船が必要だ。
船を作るには、アーサーの許可がいる。しかし、アーサーは聖杯に夢中で船なんか作ってくれそうもない。
いきなり詰んでしまいそうな状況だ。
……仕方ない、モルドレッドを焚きつけて反乱を起こしてもらおう。
アーサー王的には完全に悪役の振る舞い方だが、何せリアル世界がかかっているのだ。許してもらいたい。
モルドレッドにランスロットの不倫その他エトセトラを告げて、内乱を起こしてもらった。
アーサーは死んだ。
アヴァロンに送るために船を作ると言う。
この際、俺達の船も作ってもらうことにしよう。
「アーサー王の棺を乗せる船だぞ! いい加減に作るんじゃない!」
数か月前、モルドレッドを焚きつけていた俺は、今度はアーサー王の忠臣として良い船を作る指示を出している。
何せ、アヴァロンの後はアメリカまで行くつもりだからな。
そのためには最先端のロングシップが必要だが、この時代にはまだ存在していないし、しかもヴァイキングの本場でないイギリスでの製作だ。俺が陣頭指揮をとるしかない。
……と思ったら。
「そうヨ~ン。その木材はそっち。鉄の板をはめてもらえるかしらン?」
鄭和の奴、宝船を作っていやがる!
この時代のイギリスで、14世紀末の明の技術の粋を実現できるのか?
「全部は無理ヨン。だけど、押さえるべきところを押さえたら、十分に作ることができるワ」
さすが鄭和。こと海に関してはガチな男……いや宦官だった。
ともあれ、一年ほどイギリスに滞在した後、俺達はアーサー王の騎士達数十人とともに西へ旅立つことにした。アヴァロンはそっちじゃないという説ばかりだが、こういうのは悼む気持ちが大事なのだ。
アーサーよ、アイルランドからイギリスを見守ってやってくれ。
色々良心に痛むところがあるが、緊急避難行為だと思って許してもらいたい。
四話に続く。
"女神の一言"
『日本国刑法37条「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。 ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」』
『鄭和の作っていた宝船は"たからぶね"ではなく、"ほうせん"です。鄭和艦隊の最大の船で、長さ130メートル超、幅55メートル超あったと言われています』
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