第25話 世界史最悪の年に勝利せよ・中編

 かくして、俺と鄭和は世界史最悪の年である536年の5年前、西暦531年に転生することになった。


 中世の幕開けである6世紀は世界中が混乱していて、しかも資料が多くないことからあまり好かれていない。転生航空機はガラガラだ。


「とりあえず到着したら、中南米に行く準備をしよう。飢饉に強いトウモロコシやジャガイモを沢山植えて食糧難を解決すれば、被害は激減する」

「あら~ん、いい考えヨン。だ・け・ど~、アタシ、気になることがあるのよネ~」

「何だよ?」

 鄭和がクネクネしながら質問してくるのだが、正直気味が悪いことこの上ない。

「この転生航空機、どこに行くのかしら~ん?」


 ……確かに。

 女神は6世紀のヨーロッパに行くと言っていたが、どこに行くと具体的に言っていなかったな。

 ビザンツに降りるか、イタリアに降りるか、北欧に降りるかでかなり変わってくるし、とんでもない辺境に降りる可能性もある。

「この転生航空機は~、西欧に降りると思うけれども、東欧に降りる可能性もゼロではないし、ひょっとしたら北欧や南欧かもしれないワン」

「なんちゃってプロファイリングはやめんか」

 場所によっては海岸線に行くまでにかなり時間がかかる可能性がある。

 できれば、地中海沿岸に降り立ってほしいものだが。

 

「……聞いていないものは仕方がない。降り立ったら、とにかく船を作ることにしよう」

「いいわよ~ん」

『投機はまもなく、6世紀のロンドンに降り立ちます』

 イギリスか。

 海岸線が近いのは有難いが、この時代のイギリスはローマの支配が終わって、未開の地満点の状態だ。

 ヴァイキングがやって来る前の時代だし、どこまで信用できる船があるのか不安だ。


 ともあれ、俺達はロンドンに降り立った。

 というか、降り立ったのは俺達二人だけだ。残りの面々は、この後、オーストラリアに行くらしい。

 6世紀のオーストラリアなんて、何があるのか分からない。恐らく他の連中はリゾート目的で行ったのだろう。

 6世紀のグレートバリアリーフやエアーズロックがどんなものか見てみたいというのはあるが、時間も少ない。観光していたら、とても五年で何かをするということは無理だろう。


 一方で、イングランドも良い環境ではない。


 ローマ帝国がイギリスを去って以降、この地はブリトン人やらザクソン人といった面々の相争う場所となっていた。この時代の戦闘が伝説化されたものがアーサー王だったり、円卓の騎士だったりするらしい。

 話としては美しいが、そんな架空のお話が成り立つほど情報もない時代である。そうでなくても暗黒時代のヨーロッパにおいて、更に閉ざされた地域。


 それがこの時代のイングランドだ。

 どうしたものか。

 ドーバー海峡を泳いで、フランスからイタリアに行くのが良いだろうか。


 しかし、アーサー王のもとになる人物がいるかもしれない。

 それに中世に伐採されてしまったが、この時代のイングランドには森林も立派に存在しているから、船を作ることも不可能ではないだろう。


 移動の手間よりも、まずはこの地の有力者を探す方が先だろう。


 鄭和はどういう考えだろうか?

「……どうやったら~、宦官をヨーロッパに広められるかしらン?」


 こいつに聞くのは間違いだった……。

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