第24話 世界史最悪の年に勝利せよ・前編

 俺の名前は奥洲天成。


 トラックに撥ねられて死んだ俺は……

 って、このくだりは随分久しぶりな気がする。


『天成、貴方は中世ヨーロッパに転生するのです』

 女神が俺に指示を出した。


 あれ、この話、こんな話だっけ?

 もっとフランクに「ここに行くのよ」みたいな感じじゃなかったっけ?

 女神が普通に転生させるような話ではなかった気がするが……


 まあ、いいや。

「中世ヨーロッパと言っても、範囲が広いぞ。どこに転生するんだ?」

『世界史最悪の年、536年の前年535年に行くのです』

「536年!?」


 ……というと、ハーバード大学の中世史学者マコーミックが「人類史史上最悪の一年」と称した年のことか。

 何故この年が世界史最悪の年かというと、この年から540年代くらいまでに世界人口が激減したらしい。

 前年のインドネシアでの大噴火に続いて、アイスランドでも大噴火が発生し、火山灰が地球を覆って太陽がほとんどで出なくなったし、出たら出たで日食が起きるなど散々だった。

 平均気温は二度近く下がり、日照不足もあるから作物は実らず、世界的大飢饉が発生した。栄養不足に追い打ちをかけるように、あるいは栄養不足だからこそかもしれないがペストも大流行したという。

 母親が子供を食べるというようなこともあったらしい。まあ、これ自体は飢饉が起きると比較的どこでも発生しているが。


 この時代はビザンツ帝国のユスティニアヌス大帝の時代にあたるが、当然ビザンツも惨憺たるものだった。ただ、周囲がそれ以上に悲惨になったので、ビザンツのイタリア・北アフリカ征服が楽になったという事情もあるのは皮肉な話だ。


 この536年の世界を救いに行く……

 って、無理だろ。

 火山の爆発を止めるなんて、ファンタジー世界最強クラスの実力者でも無理じゃないか。大賢者とか大魔道士とかが必要になってくる。


「超強力な助っ人とか、ドラゴンボールでもないと無理なんじゃないか?」

『超強力な助っ人は用意するわ』

「ほう?」

『ハーイ、天成♪ みんなのアイドル、鄭和よ~』

「ゲゲッ!?」

『海洋交易の達人・鄭和とともに、世界史最悪の年に備えるのです!』

「難しそうだが、まあ、やるだけやってみるよ」


 確かに海洋交易の達人がいれば、あらかじめ物資を運搬するとか、飢饉に強い作物を沢山植えるなどして回避できるかもしれない。


 でも、前年に転生だと難しくないか?


『じゃあ、五年前にする?』


 随分適当だな、オイ。

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