第19話 中世最強の刑事を探せ・後編

 ということで、武則天を連れて、女神はスコットランドヤードの部長に転生したワン。

 後はここから高見の見物よね。


 二人はどうやら、1887年に転生したようネ。切り裂きジャックが現れる1年前ヨ。

 この年、少し前からの懸案だったテムズ川の汚染が下水道の整備と外洋への汚物遺棄システムが出来上がり、ロンドンの環境は大分良くなったのヨ。


 もっとも、女神にとってはそんなことは関係ないみたいね。


『これからしっかり準備して、切り裂きジャックを捕まえるのね』

「そうだね。それができれば一番いいね」

 武則天は生暖かい視線で答えているわ。

『それにしても、武則天は近代刑法を理解しているの? 被疑者をどこまで尋問できるか、とか』

「まさか。ボクの国では怪しい奴は全部捕まえて、拷問にかけて死刑だよ」

『ちょっとぉぉ!? それじゃダメなのよ!』

 あら〜、女神が武則天の襟を掴んで激しく揺すっているわネ。

 武則天が捜査の陣頭指揮をとれば冤罪を乱発するから仕方ないのだけどネ。


「分かっているよ。とりあえずお金を出して。この世界ではボクが出せるお金は限られているからね」

『ぬ、ぬぬぬ……』

 女神はスコットランドヤードの部長だから、まあまあの出自ということネ。嫌々ながら出費を許可したようヨ。


 武則天はそのお金を使って、ロンドン・イーストエンドの浮浪者を100人ほど集めてきたワ。

 早速一つ演説をぶつようね。

「ここイーストエンドは、ロンドンの中でももっとも酷い地区だ。君達はその中でも最底辺に位置する者達だ。いわばロンドンのボトムズ(最低野郎)と言って良い。本来なら、ロンドンの環境整備とともに消毒されなければならない存在だ」

『もうちょっとオブラートに包みなさいよ』

「しかし、君達がボク達に協力してくれるというのなら、話は別だ。つまり、君達がイーストエンド内の怪しい奴を見つけて、ボク達に密告してくれればよい。君達の密告を元に犯罪者を捕まえれば報酬1ポンドをあげよう」

『ぐぐっ!?』


 女神が動揺しているワン。

 まあ、浮浪者に渡す資金は女神の財布だものね。しかも、1ポンドをボンボン放り投げたら、かなりの出費になることは必至だものネ。

「もし、密告内容が事実と外れていたら、残念ながら報酬はなしだ。だけど、外れていたからといって処罰なんかしないよ。19世紀のロンドンに虚偽告訴なんて存在しないんだ。気にせず、怪しい奴を密告してくれたまえ」


 密告奨励キターー(・∀・)ーーーー!

 たちまち、ポンドが欲しい浮浪者が次々と怪しい奴をつるし上げていったワ。

 半年もすると、それは魔女狩りの様相を呈してきたワ。摘発されたヤツが、腹いせに相手を摘発し返して、イーストエンドは地獄もかくやという人間不信の空気が渦巻く空間となったのヨ。


 1年が経過した頃には、女神の財布もイーストエンドの人口も破滅的に少なくなったワ。

『ぶ、武則天……。財産がもうないんだけど、これで本当に切り裂きジャックが捕まえられるの?』

 女神の問いかけに、武則天が蔑むような視線を向けたわ。

「何を言っているんだい。もう解決しているよ」

 武則天はそう言って、メモ帳を女神に渡したわ。

「ボクは誰が真犯人かは知らないけれど、少なくともロンドンにいる有力者や嫌疑候補者は全員処刑済だ。つまり、切り裂きジャックは犯行をできっこないのさ」

『ほ、本当だ……。シリアルキラーは本格犯罪に移る前にまず微罪から入るというけれど、その段階で全員捕まえたのね……。ポンド欲しさの密告の嵐で飲み込んでしまったと』

「真犯人以外は微罪冤罪で気の毒だけど、切り裂きジャックを捕まえれば良かったわけで、切り裂きジャックだけを捕まえろとは言われていないからね。それに徹底的な密告奨励で被害者となる売春婦も軒並み消え去ったよ。国外から初犯でやろうにも無理だろうね。ボク達の勝ちは揺るがないよ」

『やったー!』

「ただ、キミの財産だけでは足りなかったから、将来の給与も担保に入れて借金をしてしまった。残りの人生、頑張ってね」

『……何ですってぇ!? そうでなくても、この2、3か月、まずい乾パンと雑草スープしか食べていないのに、それが死ぬまでずっと続くわけ!?』


 あらら……。

 でも、目的は達成できたのだし、ひもじい生活くらい頑張ってほしいワネ。



"みんなの一言"

鄭和「最終的に武則天になったけど、その他候補者についてのちょっとした小ネタをもう一話追加予定ヨン♪」


千瑛「ちなみに武則天は史実でも密告奨励をしていたわ。あと、厳しい拷問をする連中も多数採用して容赦ない拷問もしていたみたいね。だけど、拷問をする連中は必ず後で処刑していたから、あまり不満が溜まらなかったみたい」

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