第15話 逆襲の意次? 後編①

 どちらもOKという女神の許可が出たので、とりあえず隋の時代に転生させてみた。


 隋は三国志の時代から(西晋の短期統一があったとはいえ)続く混乱を治めた久々の統一王朝となった。文帝は中々の傑物だ。

 その次男・楊広の側近として田沼意次を置いたのだ。


「意次、わしは次男だが皇太子になれるだろうか?」

「もちろんでございます。この意次にお任せください」

 意次は楊広ようこうの側近として、皇后や愛人といった文帝に影響力のある人物を篭絡していき、更に対外的な活動も活発的にやらせた。

 兄の楊勇ようゆうは遊び人だったので、次第に文帝は不信感をもつようになり、遂に皇太子を楊広にすることとなった。


 これは史実と全く同じ流れだが、意次がいることでより円滑になっている。


 その間、楊広と意次は大運河やら高句麗平定など稀有壮大な議論で盛り上がっている。俺が睨んだ通り、どちらも大きなことが好きだ。楊広は「わしが皇帝になったら、政治は全て任せよう」と言うようになった。

 うむうむ、煬帝となった後は途中から政務を放棄してしまったからな。

 意次がいれば代わりにやってくれるだろう。


 隋は史実より長続きするのではないか。


 数年経ち、文帝が死んで楊広が皇帝となった。

 実際には諡号は皇帝が死んでから贈られるものだし、煬というのは非常によろしくない字らしく、本人に「煬帝」なんて言ったら即刻斬首ものだが、面倒なのでもう煬帝と呼ぶことにする。


 二人は早速大運河の建設を始めた。群臣の中には「金が滅茶苦茶かかるからやめておけ」と言う者もいるが、「金は賄賂で集めれば良い」と意次が喝破した。「徴集された庶民が艱難辛苦を味わう」という批判もあるが、「運河の利益はそれに上回る」と押さえつけた。

 史実でもその通りなのだが、ここに意次という優れたブレーンが加わることでより推進力は増している。


 一方で高句麗遠征についても着々と準備を進めているのだが、準備を進めているうちに日本の聖徳太子が遣隋使として小野妹子を遣わしてきた。

「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す」

「何い!?」

 煬帝が激おこだ。そこに意次がやってきた。宥めるのだろうか?

「陛下、中国は漢の時代に高句麗を支配しましたが、日本まで攻めたことはありませぬ。これを口実に日本を攻め落とし、唯一無二の天子として名を残しましょう」

 何い?

 まさかの日本攻め提案?

 おま、何かデカいことをやればいいと思っていないか?


 煬帝は、大運河を建設し、高句麗遠征の準備をしながら、更に日本攻めのための大船団造営まで始めてしまった。

 隋は統一中国として日が浅いが、文帝が貯蓄していた財があった。意次がもたらした賄賂による収入も相当なものがある。

 それでも、これだけの大事業を並行してやればとても持たない。


 高句麗遠征を機に大反乱が起き、煬帝は兵士の反乱に遭い殺害された。

 ついでに意次もその際に殺害されてしまった。


 結果的にほとんど変わらなかった。



"反省会"

「何故失敗してしまったのだろうか……」

「いや、むしろ、何故うまくいくと思ったのかが理解できないのだが?」

「江戸にいた時の五倍くらい貯蓄できたのに」

「それはまあ中国だからな。そのくらい貯まるだろうよ。というか、賄賂取っている以上、尊敬される田沼意次にはなれないぞ」

「……わしから賄賂を取ったら何が残るのだ?」

「まあ、それはそうなんだが……」

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