第14話 逆襲の意次? 中編

 今回、俺は女神のような立場になって、田沼意次を適任と思しき時代に送り込むことになった。


 有能ではあるし、商業主義の意次は送り込む相手との先が良ければ、素晴らしい成果を出すかもしれない。

 しかし、失敗したら、単なる汚職政治家で終わってしまう可能性がある。


 うーむ。


「中国にでも行くか?」

 汚職が大っぴらに認められているという点では、中華王朝はかなり良い候補といえよう。

 ただし、一つだけ前提があって科挙を通るという条件がある。官僚にならない限りはどうにもならない。

 もちろん、科挙が一般化する以前の時代に行くという手もあるが、この場合、権力が限られるように思う。この時代は貴族が強いわけだからな。

「フッ、わしがそのような試験に合格できるはずがないだろう」

「何でできないことを威張るんだよ」


 残念ながら本人の言うように合格できないだろう。

 田沼意次には著作らしい著作がない。失脚して著作が焼き払われたというような話はないから、単純にたいしたものを書かなかったのだろう。

 形式的な文を求められる科挙には向いていないタイプだ。


 次に思いついたのは、タイトルから離れてしまうがソ連だ。人脈を駆使してのし上がった意次は共産党で出世できそうだ。

 表と裏の両面から攻められるから、政治局、軍、共産党を押さえることもそつなくやりそうだ。

 ただ、ライバルも負けないほどの政治屋だし、負けると粛清という恐ろしい世界ではある。

 あと、ソ連の書記長になれたとしても、それは本人が望む「尊敬される田沼意次」とはかけ離れた世界である、というのもよろしくないかもしれない。



 難しいな~。

 せっかく送り込むんだから、3年で殺されましたとかは勘弁してほしいしな。

 どこかいいところはないかなぁ。


 しばらく考えて、思いついたのは2か所だ。

 まずは隋の煬帝の部下だ。

 さっき中国は否定していたが、派手好きで賄賂にも鷹揚そうな煬帝とは相性が良いだろう。もしかしたら、思わぬ相乗効果をもたらすかもしれない。

 最悪という意味での相乗効果もありうるが。


 もう一つはオスマン帝国だろう。

 史実と同じ、皇太子(将軍後継者)の側近からのし上がって、表とハーレムを掌握することで権力を確固たるものにできるというあたりも似ている。

 ハーレムが絡んでくるから、「尊敬される田沼意次」にはなれないかもしれないが、「羨ましい田沼意次」にはなれる可能性がある。

 ただ、オスマンの有力政治家になると軍事関係と無縁でいられない。史実では全く軍事と縁がなかった意次にそれができるのかどうか。


 この二つのどちらかだが、どっちにしようかなぁ。

「面倒くさいのなら、両方やってみればいいのではないかしら?」

「えっ、そんなことをしていいのか?」

「こういうのは生成AIと同じよ。適当に条件を入力して何回かやっていたら、うまくいく時もあるわ」

「いや、そうかもしれないけれど、本人の前でそういう身もふたもないことは言わない方が……」

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