第8話 マーニー・ハイイェー、懲りずに新興宗教を作ります・中編

 マーニーは相変わらず、自分で全て完結させてしまう宗教を作りたいと思っているようだ。


「なぁ、マーニーさん。現実を見ようぜ」

「……分かっている。私が作り上げたマニ教は言語の流行り廃りに飲み込まれ、没却してしまった。人類の未来は不可解極まりなく、人の想像の及ぶところではない」


 そこまで分かっているのなら、今度はもうちょっと曖昧にした方が。


「ただ理論を固めるだけだと良くないということは理解した。誰もがマーニーの教えだと分かるアイコンが必要だ」

「アイコン……」


 何だか不安だが、とにかく7世紀のペルシアにやってきたぞ。

 この時代は、以前の「ホスロー2世に転生しました」でも明らかなように、ビザンツとの決戦近く、都テーシフォンも殺伐としている。


 マーニーが歩いていて、ふと足を止めた。

 おっと、この時代はまだ本来のマニ教が残っているんだな。ゾロアスターと比べると圧倒的に少ないが、ところどころにマニ教の寺院が残っている。

 確かに現代はなくなってしまったが、400年以上残っているというだけでもたいしたものではあるよな。宗教家としては本望なのではないだろうか。


「……この教義も多少は変更する必要があるだろう。ネオ・マニ教とする必要がある」

「ネオ・マニ教ねぇ……」


 何かマンガの組織みたいな安っぽさを感じる響きだ。

 とはいえ、俺は見届け人だ。何かを突っ込む立場ではない。


「これを踊りながら歌うことで、マニ教が完璧に刻まれると思うんだ」


 そう言いながら、マーニーは躍って歌いだす。


『燃ゆる希望に、命生き

 高き理想を、胸に抱く

 若人わこうどの夢、ペルシアの、

 聖丘せいきゅう、清く育みて

 マーニー・ハイイェー、永久とこしえに。向上の道、進むなり

 あぁ、マーニー、マーニー。永遠とわの宗教。永遠の宗教』


「PL学園の校歌じゃねえかよ!」

「そうだ。私の調べでは、この時期の日本人の多くは、PLという宗教は知らないけれども、この歌は知っていたというからな」

「それはそうなんだが、そもそも、サーサーン朝自体がもうすぐイスラーム勢力に滅ぼされるんだぞ?」


 サーサーン朝がイスラーム勢力に飲み込まれて以降、イランはイスラーム以外の宗教を認めなくなってしまった。

 つまり、マーニーがどれだけ頑張っても勝てないわけだ。


「むしろここで危機のサーサーン朝を救ったら、『マーニーはすごい! マーニーの教えを更に広めよう』となるんじゃないか?」


 何で俺がアドバイスしているんだよ。


「……」


 マーニーはしばらく考えている。


「テンセー」

「何だ?」

「私は自己完結型の人間で、他人との駆け引きは苦手だ。そんな私がイスラームに勝てると思うのかね?」

「思わないけど、サーサーン朝が負けたら、どれだけ完璧な宗教を作っても待っているのはドサ周りの運命だぞ。ムハンマドは戦ってイスラームを世界三大宗教まで引き上げたんだし、歴史を変えるにはあんたも戦うしかないんじゃないか?」

「そうか……。やるしかないのか」

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