第4話 清少納言、同人業界に殴り込みます・前編

 ワタクシの名前は奥洲郁子!

 日々、悪女に取り組む予定が......補佐役としての役割に変わってしまったのでしょうか?


「トントンへの転生は良かったわ。あれほど素晴らしいパンダ転生はないと評判のようよ」

 女神代行の新居千瑛が称賛してくれますが、何だか馬鹿にされているような気もしてきます。

「ようやく貴女もSランクになったから、付き添い転生をしてもらうことになったわ」

「それは構いませんが、一体、何に付きそうのでしょう?」

 ワタクシが悪女の支えになるということでしょうか?

 以前、フランスに復讐したい女海賊の付き添いをさせられましたが、ああいうのは勘弁してほしいものです。


「悪女は悪女よ。性悪女という意味だけどね」

「......あまり嬉しくない響きですわ」

「具体的には清少納言よ」


 清少納言!

 何と、まさかの枕草子の作者に同行することになろうとは!

 しかし、いつの時代に転生するんですの?


「もちろん現代よ。彼女は現代世界の同人誌について強い不満を抱いているようだわ」

 ああ、なるほど。

 今どきの同人誌はエログロが強すぎて、品位がないとかそういうことを言いたいのですわね。

 それは仕方ありませんわ。平安時代と今とでは、庶民に与えられている情報が違いすぎるんですもの。平安時代の男女はピュアでしたから土偶や埴輪でも十分すぎるほど欲情できましたが、現代の男女には無理ですわ。

「......違うわよ。今の同人誌はどうして、皇族や偉い女に踏み込まないのか不満でならないみたいね」


 皇族や偉い女!?


「紫式部と夜な夜な飲み交わして文句を言っているらしいわ。最近の表現者は弱気にすぎる。何故、時の権力者を同人誌に書かないのかと」

「さ、さすがに皇室に真正面から歯向かうのは危険すぎますわ」

 とはいえ、確かに彼女達の言うことはもっともです。

 彼女たちは時の最高権力者をネタにしていましたのですから。

 清少納言はしばしば中宮定子について書いていたと言いますし、紫式部が書いた『源氏物語』もまさにその時代をネタにした恋愛絵巻ですわ。


 おぉぉ、ナマモノ同人誌を書いては不遇の目に遭ってきたワタクシですが、心の奥底に火がつきましたわ!


 清少納言となら、どこまでも、どんな困難をも乗り越えられそうな気がしてまいりました!

 やりますわよ!


「......まあ、頑張ってちょうだい」

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