第3話 千年王国の最強皇帝、滅亡間際に転生しました・後編
バシレイオス2世は滅亡寸前のビザンツのあり方に激怒して、官僚達の呼び出しを命令した。
「どうするんだよ? 陛下」
「どうするもこうするもないわ。余が全員に喝を入れてくれる」
マジかよ。
確かに今のビザンツはギリシャ内に飛び地のように存在している都市国家みたいなものだが、それでもまだ10万以上の人口はいるし、官僚だって相当な人数がいるぞ。
と考えるのだが、バシレイオスには一般人の常識はあてはまらない。
奴は本当に全員集めて、2人1組のセットで部屋に呼び出した。
「この帝国の長い歴史において、貴様達のような腑抜けた官僚どもを見るのは初めてであり、神がこのような情けない帝国に怒りを下してもやむをえないだろう! クビにしてやってもいいが、もう一度だけ貴様の情けない了見を聞いてやろう!」
こんな感じで始まり、延々と20分くらい文句を並べ立てる。
次々と呼び出し、これを半日間続ける。
一日72人(2人×3セット×12時間)のペースで叱り飛ばしていき、これを3ヶ月以上、100日間も続けた。
七千人以上の官僚を直々に怒鳴りつけたのだ。
頭がおかしい。
よくこれだけ延々と叱り続けられるなと、俺は逆に感心してしまう。
というか、その記録をとらされて、俺は
しかし、その甲斐はあったようだ。
皇帝(名誉皇帝みたいなものだ)から直接面罵された連中は自覚せざるをえなくなった。しかもバシレイオスは全員呼び出して、全員のことを知っている。だから言い訳や逃げ場もない。
ということで、責任の所在を明確にせざるをえなくなり、急にビザンツ国内の政治が回りだした。
しかも、バシレイオスはこれで半日潰しながら、首都の見回りやオスマンの報告を受けることなどを続けていく。食事や風呂の間も政務をとりおこなっていた。
一日の睡眠時間は4〜5時間。
頭がおかしい。
ワーカホリックなんてものじゃねえ。禁欲皇帝の異名は伊達ではない。
何が楽しくて人生を生きているのかと思ってきてしまう。
そんなビザンツに転機が来た。
オスマン帝国が、新興のティムール相手にアンカラで不覚を取るという一大事件が勃発した。雷帝と呼ばれたバヤジッドは自殺とも憤死とも言われる最期を遂げ、オスマンの圧迫が弱まった。
「この機にバルカン支配を固めるぞ!」
バシレイオスは出陣した。
東欧諸国はビザンツのことを落ち目の帝国と馬鹿にしていたが、バシレイオスが連日叱咤して厳しく鍛えた兵士達はそんな東欧諸国を易々と撃破していく。
あっという間に、現在のギリシアを回復し、ブルガリアまで侵入した。かつてブルガリア人を容赦なく叩きのめした実績がある。「バシレイオスが地獄から帰ってきた」という報告にブルガリアは震え上がり、あっさりと降伏してきた。
「ブルガリアまで支配したし、今年はこれでいいんじゃないか?」
「馬鹿者! 余の遠征が終わるのは、余が望んだ結果が出た時だ!」
「でも、もうすぐ冬だし」
「冬も夏もない! 遠征が終わるのは、余が望む結果を出した時か死んだ時のみだ! 遠征が辛いのなら死ねい! ビザンツのために敵を討滅して死ぬのだ!」
無茶苦茶だが、本人が率先垂範しているから、軍の中にもノリノリな奴が増えてくる。
結局、その年、ビザンツはアナトリアも4割ほど回復した。ティムールは東に行ってしまったので、オスマンが復活する前に全部奪還してしまうつもりらしい。
それまで休みはない。
俺は痛感した。常識外の人間には奇跡を起こす力がある。
ビザンツはマジで復活しそうだ。
バシレイオスと同じスケジュールを課せられたマヌエルやヨハネスが過労死しない限りは......
"千瑛ちゃんの一言"
「片付いたようね」
「本当に復活させるとは思わなかった。奴はバケモンだ。ただ、凄いけど一緒にいると身が持たない」
「そうね。確かに以前の転生先では失敗してしまっていたものね」
「失敗したのか?」
「スティーブ・ジョブズと組ませて新しいイノベーションを起こさせようとしたら、ジョブズと2人がかりで社員を責め続けて、全員ノイローゼ死させてしまったわ」
「そんな会社絶対に入りたくねぇ......」
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