第2話 千年王国の最強皇帝、滅亡間際に転生しました・中編

 俺は専用機でバシレイオスを連れて、15世紀のギリシャへと向かう。


 というか、バシレイオスは、本人にとっては400年未来にあたる場所でもそのままの名前を名乗るのだろうか? 頭がおかしい奴と思われないかね?

「問題ないわ。その点は信じてもらえるようにしてあるから」

 なるほど。

 それはそれで、皇位を争いそうな気もするが、まあいいか。


 資料を見ると、バシレイオス2世の血筋自体は割合早くに途絶えてしまっているんだよな。

「……理解しておる。余の家系も、元から皇帝だったわけではない」

「それなら、滅亡しても良くないか……ぐはっ!」

「ローマ皇帝がなくなることなど、断じて認めぬ」


 ……な、なるほど。

 ビザンツ皇帝というのは、ローマ皇帝という地位を二分したものだが、西ローマ帝国はすぐに滅んでしまったので結果的に唯一のローマ皇帝となった。

 西側は神聖ローマ皇帝を生み出しはしたが、バシレイオスの時代はビザンツが強かったから多分相手にしていなかっただろうからな。

 形はどうあれ、ローマ皇帝がなくなるのは許されないということか。


 ビザンツはバシレイオスの死後もしばらくは良かったが、セルジューク朝あたりが勃興してくると下火になった。

 で、対セルジューク朝の援軍を求めたら十字軍という変なものを呼び起こしてしまい、更に第四回十字軍とは対立してコンスタンティノープルを占領されるという事態を招いてしまった。

 50年ほど隔ててミカエル8世がコンスタンティノープルを取り返したが、この時点ではもう小国に転落していた。

 更に悪いことにオスマン朝が勢力を強めてきていて、トルコを制圧。

 ビザンツの領域はギリシアに点々とあるだけとなってしまっている。


 マヌエル2世の時代、ビザンツはコンスタンティノープルとその周囲だけという状況だ。とはいえ、さすがに天下のコンスタンティノープルだけあって、陥落する気配はない。陥落は、オスマンが持ち出してきたウルバン砲あってのものと言えよう。


 で、到着するや否や、バシレイオスはスタスタと宮殿の方に向かっていく。

「い、いや、ちょっと待ってくれよ」

 新居千瑛は相手が信じると言っていたが、いきなり宮殿に向かったら、反体制派と勘違いされるんじゃないか。

 そう思ったのだが。


「貴様、何者だ!?」

 当たり前のように、門番に槍を突き付けられる。

「余はバシレイオス・ブルガロクトノスだ。コンスタンティノープルを助けに来た」

「……何、バシレイオス・ブルガロクトノス? ……ちょっと待て、陛下に尋ねてくる」

 え、ちょっと待って。信じるの?

 普通門前払いにするものだと思うんだが。


 しばらくすると、いかにも皇帝という感じの赤い豪華な服を着た初老の男が、何人かの廷臣らしい男達とともに駆けてきた。

「お、おぉぉ、そのお姿はまさしくバシレイオス・ブルガロクトノス様!」

 あ、ちなみにブルガロクトノスというのはブルガリア人殺しという意味らしい。

 バシレイオスの時代、ブルガリアはビザンツに反抗的だった。そのためバシレイオスはブルガリアを徹底的にコテンパンにズタボロに叩きのめした。その行為によって恐れられてつけられた異称だ。

「うむ。余は神に遣わされ、そなた達を助けに参ったぞ」

「ありがとうございます! どうぞ中へ」

 えぇぇ、こんなにあっさり信じてしまうものなのか?

 神に遣わされたなんて怪しいことこの上ないのだが。

 単純というか、何というか。


 あ、でも、女神代行が派遣したから、神が遣わしたのも間違いではないのか。


 廷臣達はいそいそと玉座をもう一つ用意して、バシレイオスをそこに座らせた。

 バシレイオスは当然といったかのごとく、玉座で足組みをして、マヌエルを睨みつける。

「今の状況はここに来るまでにこのテンセーに聞いた。して、そなたは今、どう打開しようとしているのか?」

「はい。余……私は、イングランドを皮切りにヨーロッパを回り、援軍を求めようと考えております」

「何? 援軍? 馬鹿者!」

「ひっ!」

 バシレイオスがマヌエルを𠮟りつけたぞ。

「我が帝国にオスマンを撃退する策がないのに、どうして他国が真剣に助けてくれようか。皇帝ともあろう者が逃げるようなマネをしてどうする!? まずは我が帝国自体の力を広げるがために努力するのだ! 外交交渉など皇帝が行うものではない!」

「は、ははっ……!」

 随分無茶苦茶な理論な気がするが、史実でもヨーロッパがビザンツを助けてくれなかったのは事実だから、な。

 マヌエルが海外に出るのはあまり善い手ではない。


 続いて、バシレイオスは国家の事業計画について精査しはじめた。

「馬鹿者! 何だこの曖昧な計画書は! こんな計画書で人が動くか! この計画書を作ったのは誰だ!?」

「それは官僚たちが……」

「余が帝位を継いだ時代でももう少しマシだったぞ! ええい、官僚達を呼べい!」

 バシレイオスは激怒している。


 まあ、あれだよな。

 これだけ国家が衰退してしまうと、官僚としても中々打てる手がないし、予算もないから、目標自体が抽象的になるんだろうな。

 しかし、バシレイオスはどうする気なんだろうか?

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