第148話 クリストファー・コロンブスに転生しました・後編
俺はスペインに乗りこみ、カトリック両王を説得した。
紆余曲折の末に、どうにか資金をゲットした。
ここまで来れば何とかなるだろう。
この時代、航海の最大の問題は壊血病だったが、これはラム酒など柑橘類をうまく保存できるようにしておけば問題ない。
船員達には地図を書いて、こうやって向かうんだということを教えた。
「こんな大陸があるんすか?」
「ある」
「へー」
アメリカ大陸についてはヴァイキングが発見しているが、その情報は届いていない。ゆえに、普通の船員は「ユーラシアとアフリカしか大陸はないでしょ」と考えている。
その状況でアメリカに着いたら満足して更に行こうという意欲を失う。
だから、あらかじめアメリカが通過点であることを明示しておくのだ。
かくして、俺達はウェルバから西に向かう。
船上、船員達は俺が教えた『ガンダーラ』を歌いながら陽気な様子だ。
インド大陸に向かうとなると、やはりこの歌でなければならない。
航海は順調だったが、さすがに南米大陸を迂回するあたりでは苦労することになる。
「本当に行けるんすか?」
船員が不安そうだ。
確かに陸やら島が入り組んでいて、このまま進んで実は行き止まりでした、となっていそうな気配が満々だ。
「南の方が回れるんじゃないっすか?」
確かに、南の方には広い海が広がっている。史実ではドレークが使ったと言われるドレーク海峡だ。
ただ、南に行けば行くほど海は荒れる。
ドレーク海峡のある南緯60度付近は「絶叫する60度」とも呼ばれ、陸地もないことから暴風が吹きまくっている。進むにはあまりに危険な海域だ。
マゼラン海峡にしても、50度付近だからきついのだが、島や陸地が遮蔽物になっている。何とか我慢してこちらを進むしかない。
苦労すること数日、ようやく船はマゼラン海峡を抜けた。
ここからは北に進んで、食糧を確保して、西進だ。太平洋は広い。
魚釣りをしつつ、どうにか食いつないでいくしかない。
俺も船員も髭でぼうぼうだ。
それでもどうにか、船はどこかの島についた。ただ、島民達が船に侵入してこようとしてきて、とてもではないが食い物を求めることはできない。
また魚釣りをしなければならないなぁ。
更に進むこと数日。
「陸地だ! 陸地が見えたぞ!」
遂に陸地にたどりついた。
あの街並みは中国だ!
俺達はついに太平洋を越えて、中国に着いたぞ!
中国・杭州で俺達は歓迎された。
船員達は金目のものを欲しいと狙っていたようだが、中華料理がうまいのでそうした意欲も失ったようだ。南米の物産を陶磁器などに交換して、みんなご満悦だ。
「よし、次はガンダーラだ! インドに行くぞ! カレーを食うぞ!」
船員達が意気軒高だ。
「ハハハハ、インドもいいが、その前にジパングにも行こうじゃないか」
「船長、何を言ってるんすか? ガンダーラっすよ、愛の国ですよ?」
「そうっすよ。愛の国に行って、愛を楽しむんす!」
こいつら、愛の国を勘違いしていないか?
とはいえ、船員はラテン系の男達、その恋の炎に火をつけてしまったら、もう止めることはできない。
そうでなくても、この数か月、船上でずーっと禁欲し続けていたわけだし。
セイレーンとか人魚などの伝説があるが、あれは禁欲しつづけていた船員達がイルカやアザラシを見て、「あれが女ならいいっすね」とか言って作り出した妄想の産物だったのだ。
妄想というものは恐ろしいものなのだ。
俺は彼らを説得することができず、結局、中国まで来ながら、ジパングをスルーする羽目になってしまった。
結果としてスペインに戻ることはできた。
陶磁器や香料はバカ売れで大金持ちになれた。
史実のコロンブスはめぼしい物産のカリブ海をうろついていたので巨万の財をなせなかったから、大成功と言っていいだろう。
それでも、ジパングは遠かった。
"千瑛の総括"
「今回も大勝利だったわね。ただ、ジパングについていたらSランク昇格だったけれど、僅かに届かなかったみたい」
「俺の人生って、そういうのの連続な気がする。ところで、鄭和とコロンブスがどうこうと言っていたが、何を話していたんだ?」
「たいした話ではないわ。アメリカ大陸に宦官制度を導入したら、面白いのではないかという話よ」
「やっぱりそれかよ。面白いか?」
「宦官しか大統領になれないようにしたら良いんじゃないかとも言っていたわ」
「それも俺が想像した通りじゃねえか」
「……つまり、それだけ意思疎通ができるようになってきたということね。次回は鄭和と二人で何かやってみる?」
「ウフフフ、天成がアタシの考えを理解してくれて、うれしいワ♪」
「い、嫌だー!」
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