第143話 始皇帝に転生しました・中編

 俺は趙の首都・邯鄲へと転生した。


 始皇帝については「キングダム」が有名だから、その半生についてあまり説明しなくてもいいと思うが、俺の父親の異人いじん荘襄王そうじょうおうは有力な王位後継者ではなかった。だから、趙に人質に送られていたのだ。

 ただ、当時の王太子の正妃には子がいなかった。

 そこに目をつけたのが呂不韋りょふいだ。「荘襄王に金をやってPR活動をすれば、後継者になれるんじゃないか?」と近づいて、実際、後継者になった。


 その途中で荘襄王が呂不韋の愛人が欲しいと言い出した。その愛人の子として生まれたのが後の始皇帝・政だ。だから、「実は呂不韋の息子じゃね?」という説があるわけだ。


 さて、幼児期の俺は人質の子という肩身の狭い立場だが、今回に関しては最高点を取らなければならないからのんびりしてはいられない。

 生まれると同時に工作活動だ。「李牧りぼくはいずれ秦のために働く」と流言をバラまくぞ。


 李牧もキングダムで有名だろう。

 史実では裏切らないまま暗殺される。ただ、それは秦と趙が戦争をはじめて、奴がいっぱしの忠誠心を持っていたからだ。

 そうなる前の子供の段階から、「李牧は裏切る」と触れ回るわけだ。こうなると奴は就職もできないだろうから、趙で働くことはない。

 あわよくば秦で拾おう。


 同じことを楚の項燕こうえんにもやるぞ。工作活動費を呂不韋に要求しなければ。

「じぃじ、金くれ」

「……おまえは父親より金がかかるなぁ」

 と言いつつも、自分の隠し子かもしれない奴が将来秦の王になるのは楽しみなのだろう。呂不韋は金を出してくれた。


 呂不韋の、荘襄王持ち上げ運動はとんとん拍子に進み……とまでは行かなかったが、とにかく王になった。途中、秦が攻めてきて、報復で殺されそうになったりと大変だったが、長くなるので省略だ。分かっているから、回避はできると言っておこう。

 しばらくして亡くなり、俺が秦王となった。

 とりあえず内政は呂不韋に任せておこう。俺は引き続き工作だ。


 俺が18歳になる頃には、李牧も項燕もいづらくなって国を出た。

 大成功だ。李牧がいなくなると匈奴を止める奴がいない……というより、李牧は実はそっちの功績の方がでかいのだが、そんなことは気にしても仕方ない。匈奴は俺と蒙恬で止めればいい。


 呂不韋は国内でブイブイやっている一方、俺の母との関係がまだダラダラと続いていた。何とか解消しようと呂不韋に嫪毐ろうあいを後宮に送り込んだのだが、こいつが余計な野心を抱いて反乱を起こした。

 この件で呂不韋は立場が弱くなる。最終的に俺が最後通告を出して自殺に追い込むというわけだ。


 ここまでは盤石だ。


 ここから六国統一に乗り出すことになるが、正直強敵はいない。李牧も項燕も追い出したから、敵国にはまともに戦える将軍もほとんどいないだろう。

 最重要課題は、韓を攻める時に張良を捕まえることである。後の劉邦の軍師となる張良だが、この時代はまだ血気荒い若造だ。逃さずに捕まえたい。


 幸先が良いことに、追放させて以降、ひそかに交渉していた李牧と項燕が秦に仕官してきた。もちろん採用して、李牧には対匈奴で当たらせることにした。


 ここまでは完璧な布陣だ。やり残したことはない。


 ナポレオン・ボナパルトの時もそうだったが、元々の勝ち組を送っている奴の人生に更に彩りを加えるのは楽しい。

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