第137話 ハンニバル・バルカに転生しました・結末

 プブリウス・コルネリウス・スキピオは共和制ローマの誇る名将の一人ヨ。


 史実ではアタシ達に勝って、第二次ポエニ戦争を勝利に導いたことでアフリカヌスとも呼ばれているワ。

 ここではそんな呼称は与えないわよ。


 イタリアから海路、スペインまで到着して、いきなりカルタゴ・ノヴァを奇襲しようだなんて中々大胆な戦略を考えたものだワ。


 だけど、この世界ではハンニバルに不利な要素はかなり減っているのヨ。

 それはつまり、アタシが自由に動けることも意味しているワ。

「追うわヨ」

 アタシ達も軍勢を率いて、スキピオ船団を追いかけたワ。


 海軍技術はまだまだカルタゴの方が上ヨ。

 エルベ川に到着しようとしているところに不意に現れて攻撃を開始するワ。


 奇襲攻撃のための部隊が、奇襲攻撃を受けた時ほど滑稽なことはないワ。

 彼らは完全に大混乱。ローマ軍の鉄の規律も破綻をきたして、あろうことか逃げ出し始めてしまったわね。

 どこに逃げようというの? ここは敵地なのに。


「このまま逃がしてあげてもいいけど、言葉も土地も分からないところでどうやって生きていこうと言うの? 降伏して奴隷として働いた方がまだしも安全ヨン♪」

「な、何故我々の攻撃が分かったのだ?」

 おっと、プブリウス・スキピオが尋ねてきたワ。


「そうね。貴方は天才ヨ」

 史実では誰も気づけなかったんだものネ。

 しかも、ローマは良くも悪くも堅い作戦ばかり採用して、戦場では何度負けても同じ戦い方しかしない組織。

 そんな中で、突然相手の根拠地を襲うなんて全くセオリー外のことを発案して実行してのけたスキピオは天才と言っていいワネ。


「だけど、アタシ達は神の戦士なのヨ。アタシ達が戦わないと、神が死ぬもノ」

 神を持ち出すことは多々あるけれど、今回のアタシの行動には本当に女神の生死がかかっているからネ。

 女神としては微妙かもしれないけど、さすがに死んだら困るワ。

 それも踏まえて、新居千瑛は女神の命まで賭けたのかもしれないわ。


「……相手が上だったということか」

 スキピオはガックリと肩を落としたワ。

 天才だけに、彼はローマの一般的な面々とは考え方が違ったのヨ。降伏したワ。


 ローマにとって、軍が逃げるなんて論外だし、降伏するなんて驚天動地の出来事だワ。

 史実では、ローマ軍は戦場で討ち果たして弟の首を放り投げて、アタシの戦意を削いだと言うけれど、アタシは降伏した面々が楽しくやっている手紙をローマ市内に送り込んだのヨ。


 一つの価値観で固まっていた社会……神話によって維持されていた社会が急激に不信感を抱いた時の悲惨ぶりは目もあてられないわネ。

 降伏者がいた、という事実にローマの鉄の結束は崩れてしまったノ。

 籠城している市内では犯罪が発生するようになり、内部対立も大きくなってきたようネ。


 スキピオを出せば、更に瓦解は早まるのでしょうけれど、彼にはやってもらうことが別にあるから、ここはアタシ達で何とかするしかないワ。

 本国ローマの動揺ぶりは当然、他の都市にも伝わって、一気にこちらに傾いてきたワ。


 5:5の状況を6:4まで持ってきたら、もう勝利ヨ。

 雪崩現象でアッと言う間に8:2や9:1になるワ。

 それだけではないの。勢力差はもう大きなものではないノヨネ。


 ローマの本質的な強さであり、鉄の規律はもう失われたワ。

 勢力だけ取り戻しても、もうローマはアタシ達の宿敵ではなくなったのよ。




 弟たちはローマ市の完全な破壊を主張しているけれど、あまり興味はないワ。


 アタシ達の戦いは第二フェーズに入ったのヨ。

 それは、本国・カルタゴとの決戦。


 元々、カルタゴ・ノヴァは対ローマという観点で必要なものだった。

 ローマに勝てば、本国はカルタゴ・ノヴァに介入してくるに違いないワ。カルタゴの旧い因習を強要してきて、降伏してきたローマ兵達も処刑されるでしょうし、諸々で不都合が生じるワ。


 アタシの父ハミルカル・バルカは、本国はもうダメでローマに勝てないと思ったから出て行ったのヨ。ローマに勝った今、彼らとの関係は対決しかありえないワ。



 そして、このためにスキピオに準備させておいたのヨ。

 というより、この条件があったから、スキピオはアタシ達に降伏したノ。彼だって、さすがに母国に刃を向けたくはないのだからね。


 アタシも同じよ。やりにくいからネ。

 だから、スキピオに軍を任せてカルタゴを討ってもらうのヨ。


 史実ではザマの決戦で、ローマはカルタゴを打ち破ったワ。

 今回、アタシはバルカ家にとって「ザマァ、カルタゴ」な戦いで地中海の覇者となったのヨ。

 あとは、カルタゴ・ノヴァを中心に一大地中海国家を築き上げるのみネ。


 一つだけ心残りなのは、宦官制度を採り入れることができなかったことネ……




"天界の総括"

『何ぃぃぃ、いきなり最高点を10点更新って、そんなの無しでしょ!』

『やったー! 鄭和、信じていたわよ!』

「本当かよ」、「怪しいですわ」


「ローマに勝つだけでなく、バルカ家の繁栄を決定づけた点が高評価になったのね。そして、カルタゴにくっついたままではハンニバルは勝てないのだから、実はこの二つは近いところでリンクしていたのよ。スキピオを対カルタゴのために引き抜けたのは大きかったわね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る