第136話 ハンニバル・バルカに転生しました・後編

 アタシは父ハミルカル・バルカの後を継いで、スペインのカルタゴ・ノヴァでひたすら軍を整えたワ。


 地中海中から集めた神聖部隊も一万人。

 総勢では二十万を超える軍を編成することが可能なのヨ。

 補給が続かないから遠征は五万以上は苦しいけどネ。


 アタシの契機となるのは、26歳の時に義兄ハスドルバルが暗殺されることにあるワ。ただ、ここは暗殺を防いでおくわヨ。義兄がいるといないとではアタシの負担が変わってくるからネ。

 ここで奴隷を使うことにしたワ。


 新居千瑛が言っていた「アタシを使う意味」……。

 アレは奴隷に対する考え方を意味しているのではないかしら。


 カルタゴもローマも奴隷は消耗品なのヨ。

 だから、使い方も荒いのヨ。

 アタシはムスリムということもあるけれど、イスラム式奴隷の使い方をすることにしたワ。つまり、マムルークみたいな使い方ネ♪

 アタシの下でなら、出世できる。だから、頑張るというわけヨ。これでアタシの軍の粘り強さを増すのよ。


 それでもローマとカルタゴとでは底力が違うワ。

 ローマは国民皆兵制度。市民全員が兵になれるよう訓練されているのヨ。

 この時代はまさに全員が兵士。全員が戦闘員なのヨ。

 カール・マルクスが「この時代のローマが良い」というワケだわ。


 カンナエで数万、他の戦いでも毎回万のローマ兵を殺害したのに、彼らが屈しなかったのは、そのとてつもない層の厚さによるのヨ。

 あと、ローマが焦土戦術に切り替えてからの対策も必要だワ。

 これも鍵を握るのは機動力だワ。奴隷達ね。


 カルタゴ本国を支配できれば、軍船も大量に動員できて一番良いのだけど、さすがにカルタゴの内戦に踏み込むのは危険だワ。

 スペイン&モロッコ対イタリア&ギリシャの構図に持ち込むのヨ。


 おっと、ガリア人を忘れてはいけないワ。

 勇猛だけど、人の言うことを聞かないガリア人は消耗品として使うにはちょうどいいの。

 アタシの部隊は虎の子だからネ。ガリア人を盾にしてなるべく使わないようにするっていうわけ。これは史実に即した動きよね。


 準備万端だワ。

 さあ、進軍するわヨ!



 アルプスを越えてイタリアに侵攻するところまでは同じヨ。

 貴重な経験を共有することで、「この人についていけば勝てる!」とまずは思わせるわけ。

 そこからは、まずは沿岸支配に力を入れるワ。


 スペインからの補充を効かせたいし、ローマとの戦いは長期戦になるから、街道も作らせるの。


 ローマの工兵隊がいれば最高だけど、とりあえず騎兵が移動できるような街道をこしらえていったワ。



 ローマから出てきた連中は、二、三戦でほぼ全滅させたワ。

 ローマは良くも悪くも同じ戦い方しかしないから、それを理解していれば野戦で勝のは簡単なのヨ。


 そうなると、ローマは焦土戦に切り替えてきたワ。

 アタシ達は南イタリアを中心に、「ローマについても損するぞ」と脅して、一方のローマはカルタゴ軍のいない地域に「ローマについて最後まで戦え」と言ってくるわけね。

 ここで騎兵の数と忠誠心が重要になってくるのヨ。

 いつでもローマに騎兵を雪崩れ込ませられるぞという脅しをかけておくことで、相手の動きを制約しようというワケ♪


 史実でアタシが引き連れていたヌミディア騎兵は人数も少ないし、割の合わない仕事を引き受けたりはしなかったからネ。


 騎兵にパルティアンショットを徹底させたから、ローマの連中は、ローマ近辺に釘付けになってきたわ。

「兄上」

「どうしたノ? マゴ」

「ローマが逆転を狙って、カルタゴ・ノヴァ攻略を練っているという噂があるようです」

「知っているわヨ」


 史実では、アタシがイタリアを動けなくなっている間に、大スキピオがカルタゴ・ノヴァを攻略したのヨ。これが戦線の一大分岐点になったのヨネ。

 アタシが街道を整備したから、史実以上にローマはスペインに攻撃をかけやすくなっているワ。


 だけどね、奇襲してくると分かっている状況で、奇襲するほど阿呆らしい話はないのヨ。

 いよいよ、決戦の時は近いワネ。

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