第133話 李顕(唐・中宗)に転生しました・結末
母の死を待ち続けることウン年。
遂に母は倒れた。
この機会を逃さず、宰相の張柬之が立ち上がり、俺と共に宮中に向かう。
「陛下。もはやここまででございましょう。あとはご子息に帝位をお譲りください」
「……確かにボクはここまでのようだ。あとは好きにするがよい」
遂に皇帝に復帰した!
「韋静よ。おまえにも苦労をかけた。これからは好きにして良いからな」
「……ありがとうございます」
既に40後半だが、彼女はまだまだ若いし愛らしい。
その目が若干暗く淀んでいたようにも思えたが、息子が殺されたショックからまだ立ち直れていないのだろう。
「……苦労をかけた。おまえや一族は好きなようにして良いからな」
彼女は俺と艱難辛苦を分け合った。
これからは富貴を分かち合いたいものだ。
と思っていたのだが……
「兄さん、兄さん」
「どうしたのだ、太平公主?」
妹の太平公主は依然として宮廷の実力者だ。
正確には久しぶりに復帰した俺は、それほど多くのことができないから彼女が屋台骨となって支えている、という状況だ。
「最近、皇后が娘とあちこち観光に行っているみたいだけど、兄さんはハブられたの? 昔はあんなに仲が良かったのに」
「いいや、そういうことはないぞ。ただ、皇后には苦労をかけてきたし、多少の我儘は聞いてやらないといけないと思っている」
「そういうことならいいんだけど、向こうはそう思っているのかしらね~」
何か知った風な感じで、太平公主は帰っていった。
「……」
確かに、史実で結局殺されたからな。
ずっとラブラブだったし、大丈夫だと思うんだがなぁ。
ただ、息子の件で頼りない夫だったこともある。
一度、きちんと話し合おう。
俺は皇后を尋ねた。
「静よ。俺はおまえには本当に感謝している。それに息子の件では本当に苦労させたと思っている」
「……息子?」
「そうだ。李重潤の件だ」
「……あんな馬鹿はどうでもいいのです」
「へっ?」
何だかよく分からないが、皇后の後ろに怪しいオーラが。
「私はこれだけ陛下を慕っていたのに、陛下はいつも母のことばかり口にして……。どれだけ私が想いを寄せても、あなたは母親ばかり見ていました」
「い、いや、それは……」
俺はマザコンというわけでは断じてない!
しかし、母親第一という考えをしていたこと自体は否定できない。
それが静に、「こいつは妻の自分より母ばかり見ている」という絶望を与えてしまったのか。
「は、母にはそれは生殺与奪の権限が……」
「今でもあなたは母のことばかり……。もう疲れました。貴方を殺して、私は私の幸せを求めます」
そう言って、静は短剣を抜いた。
「ま、待ってくれ!」
逃げようとする先に、安楽公主が現れ、逃げ道の扉を閉めてしまった。
「マザコンなんかいらないよーだ!」
「マザコンじゃねえ!」
思わず叫んで止まってしまった。背中にグサッと熱い感触が。しかもギリギリと回転までさせてくる。
「あ……がっ……」
俺の意識は闇に閉ざされた。
"千瑛の総括"
「見事にやられたわね」
「……韋后がいきなりあんなヤンデレ系になるとは思わなかったんだ」
「ヤンデレ系でなかったとしても、あれだけ母の言いなりになっていては、見限るのが普通じゃないかしら?」
「そうは言っても、相手は武則天だぞ……」
「そうね。ちょっと他の場合をシミュレートしてみましょう」
"次期皇帝目指して全力で活動しました"
「陛下! 俺は頑張るから、次の皇帝にしてくれよ」
「……顕。今までニートだったキミが、急に頑張りだすのは怪しいことこのうえない。一体誰が背後にいるのか、正直に白状したまえ。ボクも息子を拷問にかけるのは忍びないからね」
「げぇーっ!?」
死にました。
"全力で刃向かってみました"
「……はずなのに、三日で捕まってしまったぞ! 何という情報力をもっているんだ、あいつは!」
「顕。ずっとニートだったキミに、反乱を起こす度胸があるとは思わなかったよ。ちょっとだけ楽しめたけど、キミの役目はもう終わりだね。夫婦仲良くあの世で暮らすがいい」
「ぎぇー」
死にました。
"いっそ吐蕃に逃げました"
「敵対国まで逃げれば平気だろ」
「元中宗。我々の国は武周から皇女をもらった。その条件でおまえを長安に送り返す。悪く思うな」
「うわーっ!」
死にました。
「……軒並みダメね。人生最初から完全にやり直す必要があったようね」
「それはそれで、『キミは有能過ぎて邪魔だから早めに始末するよ』となりかねんぞ」
「……次回、頑張るしかないようね」
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