第128話 ミシェル・ノストラダムスに転生しました・中編
かくして、私はノストラダムスに転生したわ。
どのような予言を組み立てようか、そう考えていたけれども……
「ありがとうございます! ノストラダムスさんの作り方で美味しいジャムが出来ました」
「そうでしょ。この私に分からないことはないわ!」
現時点での私のベストセラーは、蜂蜜と砂糖と葡萄酒でジャムを創るというものなのよ。
ノストラダムスって予想以上にマルチタレントなのよ!
天界における私と同じね!
医学も精通しているし、料理人としても名高い。
ま、医食同源というから、根っこは同じではあるんだけどね。
しかもこの時代、食材は十分ではないから、食材の評価も重要な話なのよ。食材について何か書いたらそれもベストセラーになるの。チョロい時代だわ。
ただ、調子に乗るとまずいみたいで、私は「砂糖はいいものよ」と書いたけれど、十年年上のパラケルススは「砂糖は害悪だ」と言っていて、それで「砂糖は栄養か否か」があちこちで議論されるようになったわ。
砂糖が嫌いな連中が、私に対して誹謗中傷もしてくると、いつの時代もつまらない争いはあるものなのよ……。
料理人としての仕事と、医者としての仕事が多すぎて予言なんかやってられないわ。
いっそこのまま名医者ノストラダムスとして終わってしまえば、余計な名声失墜からも逃れられるんじゃないかしら?
……それをやったら上司神から『女神のくせにセコイ生き方をしおってからに。減給だ!』とか言われかねないんだけどね。
くわばらくわばら……
そうこうしているうちに、ついに私の評判がフランス王宮まで届いたようで、アンリ2世の王妃カトリーヌ・ド・メディシスから呼び出しを受けることになったのよ。
「私がフランス一の料理人兼医師のノストラダムスでごさいます」
「そなたのジャムの話は大変興味深く読ませてもらった」
「ありがとうございます。ジャム作りにおいて、私の右に出る者はおりません」
「ただ、私はジャムよりアンの方が好きなのだ。美味しいアンの作り方はないか?」
「ならば美味しいアンパンの作り方を進ぜましょう。アンパンは老若男女問わず愛されるヒーローのような食べ物でございます」
「おまえは頼りになる男だな」
つかみはOK!
やはり、料理で相手の胃袋を掴んでしまうと、その後のコントロールは楽になるわね。
「ちなみに、おまえは占星術もやると聞いたが?」
「もちろん、私にできないことはありません」
何たって女神、女神なのよ!
できないことはないわ!
「私には三人の子がいる。未来を占ってもらえないだろうか?」
「かしこまりました」
これは有名な占いね。
ノストラダムスは「三人とも王になります」と答えて、あれって思われるの。
でも、三人のうち上の二人は早逝して、結局三人ともが順々に王になっていくのよね。
女性は占い好きだから、カトリーヌは私の事を信用するようになったわ。
だけど、国王アンリ2世はそうでもないようね。「占いなんて」という顔をしているわ。
「陛下、占いなんてと申されますが、占いは星の行く末を探ったり、料理を作ることに似たものでございます。星の動きは全て決まっています。料理も同じでございます。カップ麺にお湯を入れて三分経てば食べられるのでございます。これらと同じで人の運命も星の動きやカップ麺のごとく決まってくるのでございます」
「フン、ならば何か近々に起こることを占ってみせよ」
国王は馬鹿にするような顔で言ってきたわ。
ここでまたもや有名な占いをさく裂させることになるわね。
「若い獅子は老いた獅子をやっつける。若い獅子は老いた獅子の目を突きさし、二つの傷が一つになって、無惨な死を遂げる」
それからしばらくして、アンリ2世は槍の練習試合で相手の槍を目に受けて死んでしまったわ。
ここに私の威勢は頂点に達したわ。
あとは、これを21世紀まで永続させるのよ!
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