第126話 南宋決戦⑧ 結末編

 斉の皇帝・童貫が病死したという情報が南宋に伝わって来た。


 これは大チャンスだ!

 金には勝てないにしても、宦官しかいない斉になら勝つチャンスがある。


 俺は韓世忠とともに、高宗にかけあった。

「陛下、斉を攻撃しましょう!」

「ま、待て。斉は金の同盟国であるからして」

 秦檜が止めに入ってきた。

 だが、今の俺達を止められる者はどこにもいない!

「しかし、金ではありません! 斉を撃ち果たして、金にやられた者の無念を少しでも晴らすのです!」

「うむ、その意気や良し! 岳飛よ、おまえに任せた!」


 俺の主張は通った。


 俺達は意気揚々と都を出て、北へと攻め込んだ。

 斉は金の同盟国ではある。

 しかし、金も一枚岩ではない。斉の建国に力を尽くした連中と、特にそうでもない連中がいる。そうでない連中にとっては、何で政敵の作った国のために頑張らなければいけないのだという思いになる。


 つまり、金は斉を全力で応援しない!

 宦官ばかりの斉なら余裕で勝てる!

 この勝利の余波を買って、金との決戦に持ち込むのだ!!


 ……

 ……

 ……


「岳将軍、お味方、大敗でございます!」

「何でや!? 宦官しかおらんのに! 鄭和もおらんのに、何であんなに強いんや!?」

「というより、華北のうちらが弱すぎるのでは……」

「秦檜一派の足の引っ張りもすさまじかったしな」

「畜生……」


 俺が主導したのに、惨敗という結果。

 これはもうどうしようもない。

「オーホホホ! 岳将軍も韓将軍も当然戦犯ということで処刑ですわ!」

 郁子が高笑いしていやがる。

 くそぉ。このままで済むとは思うなよ……


 そこに皇帝高宗が現れた。

 当然、俺達は死刑だ。

 だが。

「最近、我が皇后をこのように描いた同人誌なるものがあるという」

 高宗が唐突に同人誌を取り出した。そこにはK氏コモロと書かれてあるが、明らかに高宗皇后が悲惨な目に遭う様が書かれてあった。


 郁子の顔色が変わったぞ。

「秦檜と王氏よ! 我が妻をコケにしおって、絶対に許さんぞ! お前達も不敬罪で死刑だ!」

「ひぇぇぇっ! 誤解ですわ! それは誤解ですわ!」

 絶対誤解じゃねえよ。


 結局、喧嘩両成敗。

 俺達は並んで処刑されることになってしまった。


 この転生に、勝者はいなかった……




"女神の一言"

『結局、秦檜夫妻が早く死んだだけで歴史はほとんど変わらなかったわね』

「ちくしょう……」

「それはそうと、あの幽霊はどこへ行ったんですの?」

「そういえば、結局それらしい者には全く出会わなかったな」

『確かに……、どうなっているのかしら?』


 俺達は女神の用意した水晶玉を覗き込んだ。

  

 そこには長江のほとりでたわむれあう男女がいた。


「待て~、唐琬とうえん~」

「うふふ~、ゆうちゃん、捕まえてごらんなさ~い」


『……どうやら、愛国詩人と謳われた陸游りくゆうの妻・唐琬に転生していたようね(千瑛は幼名)。二人はラブラブだったというけれど』

「これはどう見ても、単にいちゃいちゃしに行ったようにしか見えませんわ」

『あっ! 彼はもう少ししたら科挙を受けるけど、地方試験の段階で秦檜の息子を差し置いて一位になったものだから、秦檜の嫌がらせで最終試験で不合格にされたらしいわよ』

「秦檜、せこいなぁ」

『でも、この話だと秦檜は死んでしまっているから』

「あれ、もしかして、陸游の天下が来る……?」

『二人はラブラブだったけど、家庭の事情で別れさせられたというから、それさえ避ければにいいちぇもトップに躍り出ることになるわね。

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