第124話 南宋決戦⑥ 王氏に転生しました・後編
金の首都・開封に連れられたワタクシ達夫婦は、そこで金の実情をありのまま見ることになりました。
「これはダメだ。宋の腐りきった連中では金を倒すことはできん……」
夫の秦檜も金に歯向かう愚を悟ったようで、金の首脳陣に対して、「南宋を和平路線に向かわせよう」と主張するようになりました。
金もこれを信用して、ワタクシ達は南宋に戻ることになりました。
南宋の皇帝・高宗は、金に対して思うところが二つありました。
まずは、北宋最後の皇帝となった兄の
高宗は、兄が戻ってくることを恐れていました。彼は北宋が金に
欽宗が戻ってきて「兄より偉い弟は存在しねぇ!」と主張したら、非常にまずいわけです。ですので、できれば兄をずっと抑留しておいてほしいと思っておりました。
その一方、同じく金に囚われている皇后
この人は悲惨で、一緒に金に送られた皇族の女性達ともども妓楼送りになっております。
皇帝にはこのような身勝手な希望があります。それを実現できるには金とパイプのある人物のみです。ですので、秦檜は重用されるのです。
そのパイプの強さを生かして、岳飛達を早急に始末したいところですが、何と「それでも金を滅ぼさなければならない」が流行語になっているではありませんか!
さすがに天成、嫌らしい作戦を使ってくるものです。
しかし、天成は政治というものをゲーム的に考えすぎですわ。
実際の政治はもっと情実やら陰湿な形で動くものですわよ。
ワタクシは高宗の後宮にいる
呉氏はできる女です。もし、邢氏が戻ることがないのであれば、呉氏が皇后に昇格することになるでしょう。
呉氏もそれを分かっています。高宗が兄に対して望んでいることを、彼女は現皇后に望んでいるのです。
「そうした機微を心得て、金に釈放要求ができるのはワタクシ達夫婦だけですわ」
「そうですね。王郁子、期待していますよ」
ワタクシは呉氏の信任を得ることに成功しました。
同時に、他の女に対しては、金に連れられて妓楼送りになった邢氏らの末路を説明することにいたしました。
幸いにして、ワタクシの伯母は中国史に残る詞(詩の一種みたいなもの)の達人・
邢氏は名門の娘で美人でしたが、国の破滅とともに異国に連れられ、そのまま風俗送りとなってしまったという、まさに悲劇のヒロイン……どちらかというとアダルトコンテンツにいそうな存在です。
ワタクシはそれを同人誌という形で後宮に売り出すことにしました。さすがに本物の名前を書くのは不敬ですので、圭氏コモロと別の名前にすることはいたしましたが。
本はたちまちベストセラーとなりました。
自分達のかつての仲間がそのような目に遭ったと聞き、後宮中の女が恐れおののきました。
金になど刃向かうものではない。彼女達はそう固く誓ったのです。
ですので、夫や恋人が威勢のいいことを言っていても、女達がたしなめます。流行語として存在はしていますが、上層部は「和平」に傾きました。
世論調査には賢い回答をしておいて、実際の投票では本音で投票する、そういう感じですわね。
ククク、これで万全ですわ。
あとは史実よりもきれいな理由で岳飛を始末して、私達が富貴を極めるのです。
余裕があれば呉氏をも追い落とし、後宮に君臨してみたいですわ。
"女神の一言"
『一方その頃、新居千瑛は……?』
「千瑛ちゃん、ままごと楽しいね!」
「そうね……。楽しいわ」
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