第123話 南宋決戦⑤ 岳飛に転生しました・後編

 1127年、宋は滅亡した。

 徽宗の息子が南に逃げて南宋として存続はさせたものの、華北は金に取られてしまった。


 だが、俺の出番はこれからだ。

「金なんかには屈しないぞ!」

 いわゆる抗金軍を結成し、各地で金軍と戦う。


 とは言っても、向こうも南の方での戦いは得意としていない。やる気の低い相手を蹴散らせば名声があがるというボロい商売だ。

 おっとっと、商売なんて言ってはいけなかったな。


 それに、敵は目の前の金軍だけではない。

 都・臨安りんあんにいる「金と和平してしまったらいいんじゃね?」派もそうだ。


 そういう連中に主導権を取らせないために、俺は特別な作戦を用意した。名付けて大カトー作戦だ。共和政ローマがカルタゴを滅ぼす寸前に、大カトーが反対派を潰すために取った作戦だ。


 俺と同僚韓世忠かんせいちゅうの妻の梁紅玉りょうこうぎょくが会ったとする。

「これは岳鵬挙(鵬挙は岳飛の字)様、やはり金は滅ぼさなければなりません」

「やあ梁紅玉。もちろん金は滅ぼさなければならない」

 こんな風に行く先々で、何を言っても最後に必ず「金は滅ぼさなければならない」とつけるのだ。そうしていると、民衆もノリがいいから始めることになる。

 それが広まって、都・臨安でも「それでも金は滅ぼさなければならない」が流行語になった。


 こういうものはくどいくらいに言い聞かせないとダメなのだ。

 そうすることで、朝廷も「やばいな~、金と和平するなんて言い出したら、民衆が反乱を起こすかもしれない」と警戒するようになるからな。


 続いて、学生を煽るぞ。

 宋代は中国でも屈指の文高武低の時代だ。

 言論をもって殺されることはなかったし(流罪はしょっちゅうだったが)、太学の学生も優遇された。学生は理想に燃えているから、「今の状態は理想の中国ではない。金を滅ぼしてこそ理想の中国になるのだ。だから金は滅ぼさなければならない」と流布しまくる。


 これで世論は相当に高まった。

 秦檜派が多少説得したくらいでは納得するまい。


 そのうえで結果も出さなければいけないから大変だ。戦闘で負けてしまっては「やっぱり勝てないじゃん」ということになる。

 勝たなければいけない。


 しかも、できれば華北で勝つ必要がある。

 船で戦う華南で戦うのは簡単だが、華北は金の連中の得意な騎兵に勝たなければならない。これは簡単なことではない。


 俺は韓世忠と相談した。

「どうすれば華北で金に勝てるのでしょうか? それでも金は滅ぼさなければならない」


 史実では勝てなかった。

 金を滅ぼしたのは、金より更に北からやってきたモンゴルだ。

 ちなみに南宋はモンゴルと協力したが、滅亡寸前の金に負けっぱなしだった。華北で勝つというのはそれだけ大変なことなのだ。


 チンギス・ハーンがブイブイ言わすのは100年後の話だ。

 現時点で、モンゴルは頼りにならない。


「適当に勝ったって宣伝するのはどうだ? それでも金は滅ぼさなければならない」

「それはさすがにやりすぎでは……? だから金は滅ぼさなければならない」

 戦果の過大申告はどこもやっていることだが、存在しない戦闘に勝ったというのは中々難しいところがある。うっかりバレると秦檜に思い切り突っ込まれるだろうからだ。

「敵の主力を南に呼び集めて、叩くことができればいいんだけどなぁ。やはり金は滅ぼさなければならない」

「それができれば苦労はないですねぇ。もちろん金は滅ぼさなければならない」


 敵も南ではある程度負けることは織り込み済みで、成果を出すというよりも厭戦気分を出させるために出兵している。本腰にはならないから、主力を全て南に呼び込んで叩くというのは現実的ではない。



※女神の一言

『面倒くさいので、次話以降「だから金は滅ぼさなければならない」は省略しますが、南宋人はみんな末尾につけていると思ってください』

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