第119話 南宋決戦① ~ 岳飛に転生しました・前編

 俺の名前は奥洲天成。


 今回は、一体、誰に転生するのだろうか?


『今回は南宋の岳飛がくひに転生してもらうわ』

「何、南総の里見?」

『……里見忠義にでも転生する?』

「勘弁してください」


※里見忠義は戦国でも中々の負け組の一人


 岳飛への転生か。

 中国最大のナショナルヒーローと呼ばれる男だ。

 北宋が金に滅ぼされて南に亡命し、南宋の将軍として金との戦いを優勢に進めていたと言われるが、金と講和したい秦檜しんかい率いる当時の首脳部に陥れられて殺されたと言う。


 ということは、今回の勝利条件は、秦檜一派との政争に勝利して、金にも勝てれば万々歳というところか。


『ところで、今回は特別編なのよ』

「特別編?」

『歴史そのままだとつまらないでしょ? だから郁子ちゃんが王氏に転生することになっているわ』


 何!?

 王氏というと、秦檜の妻か!

 史書によると、秦檜は岳飛を牢獄に入れたが、人気の高い岳飛を殺すことを躊躇っていたと言う。しかし、妻の王氏が「Hey you、殺しちゃいなよ!」と勧めたことで踏ん切れたのだ。

 だから、岳飛廟には秦檜だけでなく妻の銅像もあって、最近は改善されたというが、昔は来場者がことごとく唾を吐きかけていたという。


 その王氏に郁子が転生する。

 これは非常に厄介なことになる。


『岳飛はそうでなくても不利な立場だからね。向こうは知らないけど、天成には教えておいてあげるわ』

「あいつが秦檜側にいるとなると厄介だな……」

『勝ち目無しかしら?』

「馬鹿を言うな。世界史の重みに阻まれることはあったとしても、郁子にまで阻まれるつもりはない」


 史実の岳飛は政治面では無頓着というか、戦場でだけ結果を出していればどうにかなると考えていたようなところがある。

 だから、政治面にしっかり人脈を作れば、秦檜にそうそう負けることはないだろう。


「……」

『どうしたの?』

「念のため聞くが、他に転生するのは郁子だけだな? あの宦官とか、幽霊はいないよな?」

 特にあの宦官が秦檜になっているとやばい。「最大のヒーローが宦官なんて素敵よね♪」とか言い出しかねない。

『それは大丈夫よ。鄭和を連れていけば、「岳飛を宦官にするわよん♪」とか言い出しかねないからね。あの幽霊は勝手に動くから私にもどうしようもないわ』

「なるほど……」


 かくして、俺は11世紀後半の中国へ向かうことになった。

『本日は、天界航空をご利用いただきありがとうございます。この転生航空機は13時発11世紀中国行きでございます。当機の機長は新居千瑛。チーフパーサーは鄭和でございます』

「何ぃ!?」

「お客様、ヘッドホンは使うわよネ♪」

「使わんわ!」

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